JS22-2:原始的な陸上植物と共生する菌類,アツギケカビ目: その分類と菌根共生について
1信州大学大学院総合工学系研究科, 2学振特別研究員(DC)
コケ植物から種子植物に至る陸上植物の約9割は,生育に必須な土壌無機塩類や水分の効率的な吸収を菌根菌に依存している.そのため,陸上植物の祖先が過酷な陸上環境に進出し,その後に繁栄を遂げた際にも,菌根共生が重要な役割を果たしたと考えられている.特に,グロムス門(Glomeromycota)のアーバスキュラー菌根菌は多様な植物を宿主とし,この中には最も祖先的な陸上植物である苔類も含まれる.加えて,植物が初めて陸上進出を果たしたとされる約4億年前には,グロムス門が植物と共生していたことが化石から示唆されている.これらの知見を根拠に,グロムス門は菌根共生の始祖であろうと目されてきた.
ところが近年,祖先的苔類(コマチゴケ綱: Haplomitriopsida)はグロムス門と共生関係を結ばないが,より祖先的な系統の菌類(アツギケカビ目,ケカビ亜門: Endogonales,Mucoromycotina)と共生関係を営んでいることが明らかにされた.すなわち,「現存する最古の陸上植物は,祖先的な菌根菌であるアツギケカビ目と共生する」ことが示された.この発見以降,アツギケカビ目も菌根共生の始祖たり得たとする仮説が浮上し,新たな研究対象としてにわかに注目を集めている.しかしながら,アツギケカビ目は採集事例が世界的にも極めて乏しく,系統分類学的研究はほとんど顧みられてこなかった.
演者は現在,アツギケカビ目の分類体系の確立を目的に調査を進めている.これまでに,国内にも多様な種が分布することが明らかとなり,分類学的に重要な幾つかの知見を得た.また,菌根共生の実態の解明を目的に,接種試験ならびに野外より採集した苔類の菌根構造の観察を行ってきた.
本発表では,アツギケカビ目がどのような菌類なのか,系統分類および菌根共生の観点から紹介したい.
keywords:Endogonales,liverwort,mycorrhizal symbiosis,Mucoromycotina