JS21-1:水圏での薬剤耐性遺伝子保有者としてのyet-to-be cultured bacteria
愛媛大
薬剤耐性菌の研究は,感受性が耐性へ変化するフェノタイプを見なければならないため,これまではコロニーを形成する細菌で研究されてきた.臨床で問題となる多くの病原菌は培養可能だが,環境中での耐性遺伝子動態を知ろうとすると,多くを占める“培養できない細菌”を見なければならない.近年のレジストーム解析は全細菌のDNAを対象にできるが,菌種との対応,および遺伝子の定量化ができない.このように,現時点では耐性菌・耐性遺伝子の研究にはいくつかの壁がある.
演者は,培養可能菌と培養できない菌(種々の生理状態があるが,ここでは便宜的にyet-to-be cultured bacteriaと総称する)の群集に存在する耐性遺伝子量を知る目的で,培養法と定量PCRを組み合わせて,環境中での耐性遺伝子のリザーバを研究している.
例として,フィリピン(マニラ)の,湖から河川を経て海にいたる環境でのサルファ剤耐性遺伝子のモニタリング結果を述べる.サルファ剤耐性の培養菌では,淡水から海水まで,sul1とsul2が10-3 copy/16S程度検出され,sul3はほとんど検出されなかった.これまでの,sul3はマイナーなsulであるという報告と一致した.しかし,全群集DNAでは,淡水ではほとんど検出限界以下にも関わらず,海水ではsul3, sul2, sul1がいずれも10-5~-3で検出された.本研究から,海水の細菌群集には淡水域より多い量の耐性遺伝子が存在し,sul3を含み多くは培養できない細菌が保有していることが示唆された.sul遺伝子を保有する培養菌は全てγ-Proteobacteriaであったが,海水群集の組成は多様であり特にγ-Proteobacetriaが主要なわけではない.検出されたsul遺伝子自体は配列がほぼ100%一致することから,環境では同じ耐性遺伝子を種々の細菌種が保有し,これまでは,そのなかから培養できる菌種のみが選択的に検出されて研究されてきたことを示している.
我々の見えないところに,未知の耐性遺伝子を保有する大きなリザーバがあると考えられる.
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