JS19-1:インドネシア農耕地の物質循環に寄与する土壌細菌の多様性と利用可能性
東京大学・大学院農学生命科学研究科
インドネシアの農耕地から、脱窒細菌、根粒細菌、リン酸可溶化細菌、およびメタン酸化細菌を分離または集積培養し、その活性を測定した。これらの細菌は、農耕地の物質循環において重要な役割を果たすと考えられている。
インドネシアの水田土壌から、脱窒細菌を分離した。分離株の大半は、日本などの温帯域からもよく分離される脱窒細菌と共通の属に分類された。しかし、Azonexus属、Diapholobacter属といったこれまで日本の水田からは報告されていない属の脱窒細菌や、Piscinibacter属、Azohydromonas属といったこれまで脱窒能を持つ個体群が知られていない属に分類される脱窒細菌も得られた。また、既知の脱窒細菌と同属に属しながら、独自の機能遺伝子の系統をもつものも分離された。脱窒率はおおむね高く、N2変換率の高い分離株の割合も多かった。
ダイズの根粒から根粒細菌を分離した。分離株をインドネシアで普及しているダイズ品種Groboganへ接種し、根粒の数や重量の測定に加え、Groboganの生育も試験した。その結果、Groboganに共生し、良好な生育促進(窒素供給)効果を示す根粒細菌株を獲得した。インドネシアにおけるダイズ畑への応用が期待される。
畑地および水田の土壌から、無機リン酸塩(リン酸カルシウムおよびリン酸鉄)を溶解し、かつ有機態リンからリン酸を取り出す細菌を分離した。さらに分離株の中から、窒素固定活性およびインドール酢酸(IAA)生産能をもつ株を選別した。これまでの試験で、これらのリン可給化/窒素固定/IAA生産細菌の中には、イネの幼植物体に対し生育促進効果を示すものが認められている。
水田土壌を接種源としてメタン酸化細菌の集積培養を行った。また、メタン酸化活性およびメタンモノオキシゲナーゼ遺伝子の存在が確認された集積培養から、メタン酸化細菌の分離を試みた。これまでに純化に成功した可能性がある株が何度か(一時的に)得られたが、その継代は非常に困難であり、今までに継代可能な状態の純粋培養株は得られていない。しかし、メタン酸化細菌の分離源としての集積培養は安定して維持されているため、この集積培養を一つの生物資源として微生物保存機関に寄託する道を模索している。
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