JS22-1:藻類寄生性ツボカビの分類学的研究 −未知のツボカビの正体を探る−
筑波大学菅平高原実験センター
ツボカビは、後方一本鞭毛を持つ遊走子を生じることで特徴付けられ、系統的には真菌類の初期に分岐するグループである。水圏や土壌を中心に普遍的に存在し、難分解性物質を分解する腐生性のものや藻類など他の生物に寄生するものが知られ、約1000種が記載されている。
ツボカビの中でも特に藻類に寄生するツボカビは、植物プランクトンの個体群動態に影響を与える要因の1つとして古くから認識されてきたが、近年、水圏の食物網における重要な役割が見出された。ミジンコ等の動物プランクトンは、大型植物プランクトンを直接摂食できないが、植物プランクトンに寄生したツボカビが放出する遊走子は小さいためこれを摂食できる。このツボカビ経由の物質経路(Mycoloop)は、水圏の物質循環の新たな経路として大きな注目を集めている(Kagami et al., Front Microbiol 2014)。その重要性から、近年、環境配列の解析により、水圏のツボカビ群集を明らかにする研究が多数行われた。しかし、これらの研究で、多くの環境配列に対応するツボカビの正体が分からないという問題が生じている。このような問題の最大の原因は、寄生性ツボカビの実態に関するデータの不足である。ツボカビの分類体系は、分子系統と遊走子の微細構造学的形質に基づき再編成がなされているが、その多くは培養の容易な腐生性ツボカビを中心に進められている。一方、寄生性ツボカビは、過去に数多くの種が記載されているにも関わらず、培養が困難で研究が遅れており、現行の分類体系から欠落している。そこで演者らは、寄生性ツボカビの分類学的整理のため、特に藻類寄生性ツボカビを対象にその分類学的研究に着手した。
各地の湖沼の水サンプルから藻類寄生性ツボカビを検出し、ツボカビと宿主藻類との二員培養を試みたところ、現在までに3株の確立に成功した。各株の核SSU rDNAの配列を取得し相同性検索を行ったところ、いずれも未培養ツボカビの環境配列と近縁であった。取得した配列を用いて分子系統解析を行った結果、いずれの株も既知種とは異なる系統に位置し、うち2株はツボカビ門内の独立目相当の新規クレードに属した。また、各株について、生活環全体を通した形態観察、遊走子の微細構造の観察および過去に記載された既知種との照合に基づく種同定を行っており、本発表ではこれらの結果についても報告したい。
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