JS18-2:深部地下圏メタン生成プロセスの複雑性:珪藻岩層と石炭層微生物メタンの工学研究における諸問題
公益財団法人北海道科学技術総合振興センター幌延地圏環境研究所
1.はじめに
地層内部でのメタンの生成(エネルギー生産)や抑制(温室効果ガス削減)について微生物利用を考える場合、原位置におけるメタン生成プロセスの理解が不可欠である。本講演では、著者らが約10年間にわたって北海道の珪藻岩や石炭の地層で行ってきた研究の中から「地下圏微生物の工学研究」について課題となりそうな知見をいくつか紹介したい。
2.地層内におけるメタン生成プロセスの不均一性
珪藻岩の地層で複数の近距離座標から採取した地下水のメタン生成活性を培養法により調べた結果、座標ごとに利用可能なメタン生成基質が異なっていた。パイロシーケンスによる微生物群集構造解析では大きな違いが見られなかった。これには珪藻岩層の難透水性(10−9ms−1以下)と細孔半径の小ささ(5〜20nm)や固結した地層特有の遮蔽性能によるハビタット間の連絡の困難さが少なからず影響していると考えられる。このような地層内のメタン生成末端プロセスの不均一性の評価やその成因の解明は重要な課題である。
3.Homoacetogenとメタン生成アーキアの基質の競合
Acetobacterium属細菌に代表されるhomoacetogenはH2/CO2を基質に酢酸を生成する。Acetobacterium属細菌は珪藻岩や石狩炭田瀝青炭の地層水に高比率に存在している。熱力学的には水素資化型メタン生成反応の方が有利であるが、実際に培養実験を行ってみるとAcetobacterium属細菌がメタン生成アーキアとの基質の競合に勝ってしまうことや共存するケースが珪藻岩層の地下水で確認されている。同様に、水素以外のメタン生成基質の競合も確認されている。このようにメタン生成末端プロセスを複雑化し、時には阻害的に作用するhomoacetogenの影響を考慮することは地下圏におけるメタン生成の工学利用を考える上でも重要な課題といえる。
4.メタンを消費する培養困難な微生物
珪藻岩の地層水では、しばしば嫌気的メタン酸化アーキアの遺伝子が検出される。採取座標によってはかなり高比率に含まれる地層水もある。この系統の微生物もhomoacetogenと同様に地層内おけるメタン生成プロセスを考える上で無視することができないが単離が困難なため詳細な機能はほとんどわかっていない。
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