JS16-1:細菌の飢餓生残におけるエネルギーの役割:嫌気性光合成細菌の非増殖期での光エネルギー利用
首都大院・生命
自然環境中での栄養源供給は不安定であり、多くの細菌は飢餓状態であるとされる。一部の細菌では芽胞や休眠形態形成により飢餓環境を生き延びるが、芽胞を形成しない大部分の細菌が飢餓環境でどのように生残しているのかは不明な点が多い。非胞子形成菌が飢餓条件で細胞を維持し生残するためにもエネルギーが必要と考えられている。しかし従属栄養細菌にとって栄養源飢餓はエネルギー源飢餓も引き起こすため、生残とエネルギーの関係は十分解析されてこなかった。そこで本研究では嫌気性光合成細菌である紅色非硫黄光合成細菌を使用した。紅色光合成細菌は生育時には光エネルギーからATPを合成し栄養源は主に有機物から得るが、栄養源枯渇条件でも光からATP合成可能とされる。
紅色光合成細菌の炭素源飢餓条件下での生残性を明暗条件下で評価したところ、使用した光合成細菌4種すべてにおいて飢餓・光照射下では30日間にわたり生残性(CFU)を高く維持した。それに対して暗条件下では、種による生残性の違いこそ大きかったもののいずれも飢餓2-25日でCFUが初期値の0.1%以下に低下した。細胞内ATP量を測定したところ、明条件ではCFUと同じようにATP量が維持されたのに対し、暗条件下では急激なCFUの低下に先立ってATP量の大きな減少が観察された。
光照射が飢餓細胞の代謝状態にどのような影響を与えるか調べるためRhodopseudomonas palustrisを対象に、網羅的代謝産物および転写産物解析を行った。その結果、明条件の細胞では解糖系・TCA回路の代謝産物のほとんどが消費されていた一方で、アミノ酸量は維持されていた。この代謝産物の違いは、光照射によりエネルギー量が十分多いと中央代謝産物の含量を下げてでもアミノ酸等の生合成系に代謝が偏る可能性を示している。タンパク質合成系やストレス応答系の遺伝子発現が見られたことから、この代謝の偏りは飢餓に適応した方向への細胞の作り替えに寄与していると考えられた。
嫌気性光合成細菌が非増殖期で生残するには細胞内ATP量を維持することが必要であると示された。また飢餓・光照射下の細胞で活発な代謝が示唆されたのは飢餓で5日間経った細胞でのことであり、飢餓に陥ったあとでもエネルギーを確保できればある程度長い期間継続して活発に代謝する可能性が考えられた。
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