JS16-2:大腸菌のコロニー形成能における遺伝子関与
東大院・農
微生物とくに細菌は、遺伝子から見た生物多様性の圧倒的部分を占めるにもかかわらず、その分離は、コロニー形成に依存するため現在でも大きな障壁となっている。環境中の細菌はなぜほとんどコロニーを形成しないのか、あるいは、分離できた菌はなぜコロニー形成できたのか?明らかにコロニー形成は生きていることと同値ではなく、特殊な生理過程らしい。だとすれば特定の遺伝子発現が深く関与しているであろう。我々は大腸菌をモデルに、コロニー形成に関与する遺伝子を2つのアプローチで研究している。大腸菌はコロニー形成し易いと考えられているが、栄養ストレスなどでコロニー形成率が落ちる現象は日常的に経験され、また、低温飢餓に曝すとコロニー形成能が落ちていくVBNC現象は環境の細菌のモデルとされており、コロニー形成の遺伝子関与を調べるのにも適すると考えた。
(1) コロニー形成能を失った変異株:海水から細菌を分離する際、液体限界希釈培養法はコロニー法より多くの菌を分離できるという経験をもとに、液体のL-brothでは増殖するが寒天培地でコロニー頻度の極端に低くなる変異株を求めた。tsライブラリーから脂肪酸合成の鍵遺伝子*fabB*の変異が再現性よく得られたので、改めて野生型をもとに*∆fabB*株を作製して調べると、L-brothの酵母エキスに微量含まれる脂肪酸に依存して固体/液体培養の差が生じたと推定できた。微量の脂肪酸を加えた合成培地での*∆fabB*株の挙動や、VBNC状態にした野性株の応答から、脂肪酸の供給が制限された状態では、液体培地に比べて固体培地での増殖、そしてコロニー形成が抑制されることが示唆された。
(2) コロニー形成能を高く保つ遺伝子の探索:大腸菌が低温飢餓でVBNC化していく原因は、コロニー形成にとって重要な遺伝子機能が減衰するためだと考え、大腸菌のORFを一つずつ発現させたASKAライブラリーから、低温飢餓処理をしてもコロニー形成率の落ちにくいクローンをスクリーニングした。コロニー形成率は数値としての再現性はよくないが、低温飢餓に曝した同一バッチ内での株間の競争では再現性が見られる。発現強化するとコロニー形成率の落ち方が少なくなる遺伝子として、*rpoS*を含むさまざまな遺伝子が得られた。これらがどのような仕組みでコロニー形成維持に寄与しているかを検討している。
keywords:
2015/10/22修正