JS16-3:複数コピーゲノムを持つシアノバクテリアの細胞増殖戦略
1東京農業大学、応用生物科学部、バイオサイエンス学科, 2東京農業大学、生物資源ゲノム解析センター, 3JST、CREST
シアノバクテリアは酸素発生型光合成を行う原核藻類である。中でも淡水性シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942 (S. 7942)やSynechocystis sp. PCC 6803(S. 6803)は光合成のモデル生物として多くの研究が行われて来た。S. 7942やS. 6803は細胞あたり複数コピーのゲノムを持つことが知られているが、複数コピーゲノムの複製のメカニズムは不明であった。我々はS. 7942を材料として複数コピーゲノムの複製機構の研究を行っており、S. 7942のDNA複製は光合成に依存すること、単一の複製開始点より両方向に進行するθ型複製であるということを報告した。本シンポジウムではシアノバクテリアが増殖を停止させる(1)定常期、(2)暗条件における複製、増殖制御について講演する。
(1)定常期におけるゲノムコピー数制御
各増殖相におけるゲノムコピー数を比較するとS. 7942のゲノムコピー数は培養初期に一過的に増加し、定常期で減少した。培地の残存成分を分析した結果、ゲノムコピー数の減少する定常期においてリン酸量が著しく減少していることが明らかとなった。リン酸欠乏培地に培地を交換するとゲノムコピー数の減少が誘導されたことから、定常期でのゲノムコピー数の減少はリン酸の欠乏によって引き起こされていることが示された。
(2)暗所におけるゲノム複製制御の多様性
S. 7942は暗所に移行すると同時に複製活性が停止する。しかし、多様に存在するシアノバクテリアの種間において共通の制御機構が保存されているかは不明であった。そこでS. 7942とは系統的に異なるS. 6803、Anabaena sp. PCC 7120 (A. 7120) を用いてDNA複製制御機構を比較した。3株同様に光依存的にDNA複製活性が上昇する一方で、暗所での複製活性に違いが観察された。S. 7942は明所から暗所移行後、即座にDNA複製活性が低下したのに対し、S. 6803とA. 7120は暗所移行後、緩やかに複製活性が低下した。このことからS. 6803とA. 7120は暗所においてS. 7942とは異なるDNA複製制御機構を持つことが示唆された。
keywords:シアノバクテリア,藍藻,DNA複製,細胞増殖,代謝