JS15-1:日本に分布する有毒ラン藻とその環境特性
1京都大学生態学研究センター, 2総合地球環境研究所, 3東京大学大気海洋研究所
アオコを形成するラン藻には有毒物質を生産する株が多くみられるため,上水利用される湖沼や貯水池では公衆衛生上、問題となる。肝臓毒や神経毒など10種以上報告されており、これらの毒を生産する株は世界中で16属以上報告されている。一方、日本では肝臓毒のミクロキスティンとシリンドロスパモプシン、神経毒のアナトキシン-aまたはホモアナトキシンaを生産する株が5種程度報告されている。興味深いことに、海外で有毒株が報告されているほとんどの種は日本にも分布しているが、上記5種を除けば現在までに有毒株の存在は確認されていない。そこで本研究では、主要なラン藻毒の生産遺伝子群を標的として環境中に存在するラン藻毒生産株を直接検出することにより、日本に分布する有毒ラン藻の再評価を行った。また、アオコを形成するラン藻の種組成と湖沼の環境要因の関連を明らかにするため、ARISA法によりラン藻の構成種の解析を行った。調査を行った88か所中60か所でラン藻が検出され、既存のARISAデーターベースと比較することにより11種が特定された。構成種の類似性をみるため、クラスター解析を行ったところ4つのグループが検出され、それぞれの優占種はDolichospermum circinalis, D. affine, Microcystis aeruginosa及び Cuspidothrix issatschenkoiであった。環境要因と種組成を用い正準対応分析(CCA)を行ったところ、これらの種は異なる環境で優占することが示唆された。ラン藻毒生産遺伝子については、M. aeruginosaに特異的なミクロキスティン遺伝子が55カ所で検出され、本種の有毒株は多くの湖沼で潜在的に分布していると考えられた。また、アナトキシン生産遺伝子は16カ所で検出され、これらはC. issatschenkoiの有毒株に由来することが示唆された。以上の結果より、日本の湖沼ではミクロキスティン生産株のM. aeruginosaとアナトキシン生産株のC. issatschenkoiの出現頻度が圧倒的に高く、他の有毒種については存在していないか出現頻度が極めて低いと考えられる。また、本発表では、世界的にも研究事例が少ないC. issatschenkoiの有毒株の生態的特性についても紹介する。
keywords:ラン藻,アオコ,シアノトキシン