JS16-4:大腸菌における休眠細胞と半休眠細胞
1静大院・工, 2北大院・工
多くの細菌では、増殖に適した環境条件においても一細胞から生じたクローン集団内に活発に増殖している細胞と非増殖状態の休眠細胞が混在する。ゲノムに変異が入らず一定の確率で出現する休眠細胞の存在は、分裂のみを増殖手段とする細菌において、表現型の多様性を確保し過酷な環境変化で生残するための一戦略として機能している。特に休眠細胞の中で殺菌性抗生物質から免れる細胞はパーシスターと呼ばれ、致死的ストレスに耐え抜く一手段として幅広い細菌でその現象が確認されている。
細菌の集団形態としてバイオフィルムが知られているが、バイオフィルム内において個々の細胞は均一の性質を有しているのであろうか?我々は非増殖状態という観点からバイオフィルム内における多様性を評価するとともに、非増殖状態出現のメカニズムを紐解く事を目的とした。
大腸菌をモデル微生物としてバイオフィルムを形成させると、その内部で休眠細胞と半休眠細胞が出現する事が明らかとなった。ここで観察された休眠細胞は増殖を休止し、DNA合成やタンパク合成は微かに行われている状態であることが示唆された。更なる詳細な解析の結果、大腸菌の休眠化には数段階のレベルが存在し、各レベルに応じて耐え抜く抗生物質の種類が異なる事が示された。また増殖速度が著しく低下する半休眠細胞は寒天培地上で小コロニーを示す細胞であり、数種の抗生物質に対して耐性を有していた。全ゲノム解析の結果、半休眠細胞は特定の部位に変異が入った自然変異株である事が明らかとなった。
以上の結果から、大腸菌バイオフィルム内では活発に増殖する細胞やパーシスター状態の休眠細胞の他に、ゲノムに変異が入り増殖が低下する半休眠細胞が出現することが示された。このように一集団中における個々の細胞の表現型は不均一であり、休眠化ならびに半休眠化細胞の出現は多様性を維持し環境変化に対応する生存戦略として機能していると考えられる。
keywords:Dormant cells,*Escherichia coli*,Small colony variants