PF-087:沖縄本島南部に分布する付加体の深部帯水層におけるメタン生成メカニズムの解明
1静大・理・地球, 2静大・創造院・環境, 3静大・大学院・理・地球
静岡県中西部,愛知,紀伊半島,四国,九州,そして沖縄までの西南日本の太平洋側の地域には、付加体と呼ばれる厚い堆積層が分布している.付加体とは,海溝において海洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む際,海洋プレート上の海底堆積物がはぎとられ,陸側プレートに付加し,形成された地質構造である.そのため,付加体の堆積層中には高濃度の有機物が含まれている.また,付加体の深部地下圏には砂層と泥層が形成されており,大量の嫌気性地下水を貯蔵する帯水層が存在している.これらの嫌気性地下水には大量のメタンが溶存していることが報告されている.これらのメタンの起源は,有機物の熱分解起源のものと,微生物起源のものが知られている.
沖縄本島南部の地下圏には白亜紀から第三紀の海底堆積物に由来する付加体が分布しており,そこに構築された大深度掘削井からはメタンが噴出している.しかし,これらのメタンの起源については十分な知見は得られていない.そこで本研究では,沖縄本島南部に分布する付加体の深部帯水層におけるメタン生成メカニズムの解明を試みた.
沖縄本島南部に構築された4ヶ所の大深度掘削井で地下水と付随ガスを採取し,環境データの測定,ガス組成の分析,炭素安定同位体比分析を行った.さらに,地下水に含まれる微生物群集の16S rRNA遺伝子解析と嫌気培養を行った.その結果,沖縄本島南部の深部帯水層中の地下水は塩濃度が高く,海水の影響を強く受けていることが示唆された.全てのサイトにおいて,付随ガス中にメタンが84%以上の割合で含まれていた.メタンと溶存無機炭素(主にHCO3–)の炭素安定同位体比分析の結果,各サイトで採取した付随ガスには,有機物の熱分解起源のメタンと微生物起源のメタンが混合して存在することが示唆された.地下水中の微生物群集の遺伝子解析の結果,水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌が優占していた.また,地下水に有機物を添加した嫌気培養の結果,水素ガスとメタンの生成が確認された.これらの結果より,沖縄本島南部に分布する付加体の深部帯水層では,水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生により,付加体に由来する堆積層中の有機物が分解され,メタンが生成されていることが示された.
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