JS12-2:ファージと獲得免疫システムCRISPRの割り切れない関係とその生態学的意義
1京都大学, 2東京大学
細菌においてclustered regularly interspaced short palindromic repeat (CRISPR) は、外来因子に対する獲得免疫機能を持った反復配列である。ところが、相反する機能をもつはずのプロファージ内にCRISPRが入り込んだものが、限られた細菌種において発見されているが、その生物学的意義は不明である。
本研究では、CRISPRを保有するプロファージに系統学的普遍性があるかを、入手可能な細菌・ウイルスゲノム、メタゲノムにて調べた。GenBankデータベース内の原核生物ゲノム、およびHuman Microbiome ProjectとMetaHITによるヒト細菌叢メタゲノムの塩基配列を取得し、プロファージおよびCRISPRを同定したところ、3,402菌種のうち19菌種のゲノム上の、プロファージ26個に43個のCRISPRが存在していた。これらのゲノムの68%(13/19個)は腸内細菌Clostridium difficileのものであった。このような、CRISPRを保有するプロファージは、唾液や腸管のウイルス塩基配列データベースにおいても検出された。また、プロファージ上のCRISPRの免疫対象を規定するスペーサー配列は、全て他のファージやプラスミドを対象としており、宿主染色体やCRISPRを保有するファージ自身を対象とするものはなかった。以上より、CRISPRを保有するファージは、主として腸内細菌種のプロファージに存在し、ファージがCRISPRを他のファージの定着抑制に用いている可能性が示唆された。
さらに環境の応じたCRISPRを有するファージ量に違いが見られたことから、この生態学的な意義を議論する。
keywords:CRISPR,ファージ,相互作用,メタゲノム