JS12-1:レトロウイルスの起源と進化
京都大
レトロウイルスは逆転写酵素をもち、ウイルス複製の過程でRNAのウイルスゲノムがDNAに変換される。レトロウイルスは、生殖細胞にもごくまれに感染すると考えられる。レトロウイルスが感染し、プロウイルスが組み込まれた生殖細胞由来の配偶子が受精し、その受精卵から個体が発生すると、すべての体細胞と生殖細胞のゲノムにそのレトロウイルス由来の配列が含まれることになる。この配列を、内在性レトロウイルス(endogenous retrovirus:ERV)と呼んでいる。ERV配列は、多くの哺乳類のゲノムのおよそ10%をも占めている。ほとんどのERVは、変異や欠失、エピジェネティックな制御を受けてウイルス粒子を産生しない。
ゲノム学的には、レトロウイルスは転移因子(transposable element:TE)の一種に分類される。TEは大きく分けて、DNA型TE(トランスポゾン)とRNA型TE(レトロトランスポゾン)にわけられる。RNA型TEは、転写されたRNAを逆転写し、ゲノム内の別の場所に再び挿入する。このため、ゲノム中に多くのコピーが生じることになる。真核多細胞生物のゲノムには多数のレトロトランスポゾン配列が存在しており、ヒトゲノムでは約40%がレトロポゾン由来の配列で占められている。LTRレトロトランスポゾンは、RNA型TEに含まれ、ゲノムの多様性を生み出すことに貢献している。LTRレトロトランスポゾンにエンベロープ遺伝子が組み合わさり、細胞外に飛び出し、他の細胞に感染していくようになったものがレトロウイルスと考えられている。レトロウイルス(LTRレトロトランスポゾン)の逆転写酵素は、LINEやテロメアーゼの逆転写酵素と別系統であり、独自に進化してきたと考えられている。
ERVはほ乳類の進化、特に胎盤の進化において大いに寄与している。たとえば、数千万年前にゲノムに入り込んだ内在性レトロウイルスのエンベロープ蛋白質は、胎盤形成に関与している。その一方で、病原性のレトロウイルスは様々な動物に蔓延し、動物の生存を脅かしている。ウイルスに対抗すべく、宿主動物は獲得免疫のみならず、自然免疫機構を発達させることで対抗してきた。しかしレトロウイルスは、変異や組換え、あるいは様々なアクセサリー遺伝子を獲得することで、宿主抵抗性因子や免疫応答を回避すべく常に進化している。
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