JS11-3:火星表面での蛍光顕微鏡を用いた微生物探査計画
東京薬科大学 生命科学部
これまで、火星は生命を宿さない惑星であると信じられていた。それは、1970年代に実施されたNASA(アメリカ航空宇宙局)のバイキング探査計画で熱気化ガスクロマトグラフ(GC)-質量分析によって有機物が検出限界以下であったという結果に大きく影響されている。しかし近年になって、バイキング探査に用いられたGC-質量分析装置の感度が究めて悪く(10の6乗細胞/g土壌)、アタカマ砂漠土壌の微生物を検出できない程度であることが明らかとなった。その後、NASAとESA(欧州宇宙機関)は火星の精力的探査をすすめ。火星の新たな描像が浮かび上がってきている。火星初期は海も大気も地磁気も火山活動もあり温暖で地球の初期環境に似ていた事。したがって、生命が誕生した可能性も考えられる。ごく最近(数百万年前)まで火山活動があった可能性があること。現在でも火星全球地下に大量の氷がある可能性があること。実際、NASAのフェニックス探査機は極域表層近くで氷を発見した。さらに、火星周回衛星からの高解像度の解析から、毎年春と夏に現れ秋冬に消失する流出地形(Recurrig Slope Lineae)がクレーター斜面に複数箇所発見されている。これは、水(あるいは高塩濃度水)が流出した可能性が高い。NASAの火星探査車MSL: Curiosityは火星表面に、メタン放出があること、表面土壌に有機物が含まれる事、土壌を加熱すると硫化水素が発生すること等を明らかにした。また、極限環境生物学研究から火星表面の環境は過酷ではあるが、地球微生物であっても生存や生育が可能であることが明らかとなりつつある。
そこで、日本の研究者グループは宇宙科学研究所のワーキンググループとして、生命探査手法の開発を行っている。方法は、蛍光色素と蛍光顕微鏡を用いて、火星表面土壌中の有機物を自動で染色して、自動撮像し画像解析の後に地球に転送するという方法である。火星表面を移動する探査車に装置を搭載することで火星表面の有機物と”微生物細胞”の探査を行うことを目指している。生命探査装置をLife Detection Microscope(LDM)と呼んでいる。LDMの開発状況を紹介する。微生物生態学会員の計画へのご支援とご参加ご協力を御願いしたい。
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