JS17-4:群集生態学のモデルシステムとしての微生物群集
東京大学大学院農学生命科学研究科
近年の技術発展により、微生物の群集構成(どの分類群がどれだけいるのか)の記述が現実的になってきた。また、微生物群集は、生態系の様々な機能や人の健康とも密接に関わっており、その構造と機能を管理するための科学体系が求められている。この背景に対応して、微生物を対象とした群集生態学の構築を目指す研究動向が活発化している。本発表ではまず、微生物の群集生態学の近年の展開を、「多様性の空間パターン」、「群集の構造とその機能性」、「微生物生態系の管理」の3つの視点からレビューする。ついで、現在の群集生態学の課題として、群集生態学における一般則の存否に関する議論を紹介する。生物群集はその構造が複雑なために、動態の状況依存性が高い。生物群集の複雑な構造と動態の理解に向けて、群集動態の多様な駆動因を4つの基本構成プロセス(自然選択・確率的浮動・種分化・移動分散)に分類することで統合的な概念枠を構築する試みがあり、微生物群集への適用も始まっている。従来の群集生態学では群集の「空間パターン」を研究するアプローチが多かったが、微生物群集を対象にすることで群集の「時間パターン」から群集生態学の発展を進めることができると考えられる。生物群集の動態プロセスを理解するうえで群集動態の時系列データの解析が有効であるが、世代の長いマクロ生物の群集では長期の時系列データを得るのは難しい。しかし、世代の短い微生物群集の動態の時系列データを解析することで、群集生態学や進化生物学の重要問題にせまったり、新機軸を打ち出したりする研究が進んでいる。本発表では、「時間パターン」の群集生態学として今後の発展が期待される重要トピックとして「群集アセンブリ」などを紹介し、群集生態学のモデルシステムとしての微生物群集の有効性を考える。
keywords:群集生態学,生物多様性,状況依存性,群集アセンブリ