JS15-4:ラン藻由来の溶存有機物を起点とする湖沼微生物ループ構造の解明
東大・院・工
藻類由来の溶存有機物は、溶存有機物を起点とした食物連鎖である「微生物ループ」を支えている。従って、富栄養化湖沼で大発生するラン藻は、湖沼微生物ループにも大きな影響を与えると想定されるが、ラン藻由来の溶存有機物を起点とした微生物ループが、どのような微生物から構成されているのかは不明である。本研究では、ラン藻Microcystis aeruginosaが排出する溶存有機物を同化する湖水中の細菌群を、DNA安定同位体プロービング(DNA Stable Isotope Probing: DNA-SIP)によって特定することを試みた。
M. aeruginosa NIES-843単藻無菌株を、12C-重炭酸、13C-重炭酸をそれぞれ添加した改変CSi培地で約1ヶ月間培養し、ろ過によってM. aeruginosa由来の溶存有機物を調製した。2013年6月に採水した神奈川県津久井湖表層水に、終濃度が1 mg C/LとなるようにM. aeruginosa由来の溶存有機物を添加し、20℃、暗所で培養した。全菌数をモニタリングし、培養1日後、14日後の試料からDNAを抽出してDNA-SIPにより解析した。
全菌数は、1日後に約4倍まで増加した後、3日後にかけて急速に減少した。1日後の試料から抽出したDNAを対象として、16S rRNA遺伝子の浮遊密度分布を解析した結果、13C-重炭酸添加系の分布が12C-重炭酸添加系の分布よりも重密度方向にシフトしており、ある細菌群がM. aeruginosa由来の溶存有機物を同化したことが示された。一方、14日後では、両者の浮遊密度分布に差異はなく、増殖した細菌群は、原生生物による捕食などにより系内から除去されたと考えられた。1日後の重画分では、Limnohabitans属に近縁な細菌の16S rRNA遺伝子が優占しており、この細菌がM. aeruginosa由来の溶存有機物を特異的に利用したことが明らかになった。津久井湖表層水の定期調査の結果からも、Limnohabitans属の16S rRNA遺伝子コピー数とラン藻数の季節変化は類似しており、現場湖水でもラン藻類が優占する時期にはLimnohabitans属を経由した微生物ループが形成されていることが推察された。
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