JS14-2:温室効果ガス削減:牛ルーメンからのメタン発生とその削減に向けて
北海道大学大学院農学研究院
ウシに代表される反芻動物は、上部消化管に複胃を有し、中でも第一胃(ルーメン)に多様な微生物群を形成することで、摂食した繊維質の分解を微生物にゆだねている。この嫌気的ルーメン微生物発酵下では代謝性水素の主要処理物としてメタンが生成される。可燃ガスであるメタンはあい気(ゲップ)として体外へ放出されるため、飼料エネルギーの損失となる。過去半世紀にわたり、もっぱら飼料エネルギー利用効率改善という視点で反芻家畜からのメタン低減が研究対象になってきた。ところが、メタン低減は近年の温暖化論議の中で大きな注目を集めるようになった。その理由は、ルーメン微生物発酵でつくられるメタンが全世界のメタン生成量の20%近くを占めること、CO2換算するとウシ1頭がおおよそ自家用車1台分の温暖化ガスエミッターであること、総計すると家畜消化管から出るメタンは全地球温暖化ガスの約4-5%に相当すること、などに要約される。畜産立国であるニュージーランドでは、家畜からのメタンが国全体の温暖化ガス総量の30%以上を占めるため、その“罪状”は甚大である。
このような背景の下、世界各国でメタン低減方法の模索が始まった。これまで飼料添加された抗生物質により、約5-10%程度のメタン低減が可能であったが、抗生物質の永続使用に懸念が示されている今、新たな代替物のニーズが高い。欧州の研究機関では500種の収集植物からメタン低減効果を有する数種を培養試験で選抜したものの、動物試験でのメタン低減は明確にできずに終わっている。メタンを低減させたとしても、代謝性水素が蓄積すると発酵(家畜の飼料消化)そのものが遅滞する。したがってメタン生成以外の水素処理経路を活性化する必要がある。
もっとも現実的なのがプロピオン酸生成(コハク酸還元)経路である。本講演では、メタン低減・プロピオン酸増強効果を有し、安全かつ有効な天然飼料素材として注目をあびている「カシューナッツ殻液」について概説する。すなわち、本素材に含まれる希少フェノール類(アナカルド酸ほか)は、その界面活性作用を通してルーメン微生物(真正細菌、古細菌、プロトゾア、真菌)を選抜し、発酵様式をプロピオン酸優先型へとシフトさせ、メタン低減を導く。素材は動物嗜好性の高いよう製剤化され、国内外の給与試験で効果が実証されつつある。
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