JS7-4:温暖化に伴う感染症の分布変化
山口大学中高温微生物研究センター
温暖化に伴い様々な生態系の変化が起こっている。ウイルス感染症においても地球温暖化の影響は大きく、その一番顕著な例が節足動物媒介感染症である。デング熱と日本脳炎を例に挙げて説明する。
1)デング熱
昨年、国内でデング熱の流行があった。国内での流行は、ヒトスジシマカが媒介していたが、東南アジアではネッタイシマカがデングウイルスを媒介している。国内にネッタイシマカが存在しないことから、国内での定着はないと予測されている。しかし、ネッタイシマカが生息した場合は、このように安心してはいられなかったであろう。ネッタイシマカは、台湾までは存在しており、過去には、天草諸島で発生があったという報告がある。地球温暖化に伴い、ネッタイシマカが北上してくれば、デング熱に関してもより危機感を持つ必要がある。
一方、一時的ではあるがデングウイルスを運ぶヒトスジシマカは1940年代では栃木県北部が北限であったが、現在は青森県八戸市でも発生が報告されている。ヒトスジシマカの分布域の北上は、ヒトスジシマカが運ぶウイルス感染症の北上を意味している。ヒトスジシマカが運ぶ感染症としてはインド洋島嶼国、インド、東南アジア等で流行しているチクングニア熱などが挙げられる。
2)日本脳炎
日本脳炎ウイルスは、前述のヒトスジシマカとは異なり、コガタアカイエカにより主に媒介される。名前のとおり、日本を含む東南アジア諸国で流行しており、年間50000人の患者、10000人の死者が発生していると言われている。一方、日本では、ワクチンの積極的勧奨により、年間患者数は10名以下にまで減少している。しかし、日本脳炎の主な増幅動物であるブタでの調査では西日本を中心として、毎年流行している。一方、北海道や東北での発生報告はない。これは、コガタアカイエカの分布と一致している。コガタアカイエカは、前述のヒトスジシマカよりも飛翔能力が高いことから、厳密に分布域を特定するのは困難であるが、地球の温暖化に伴い北海道に日本脳炎が常在する日が来るかも知れない。
節足動物の分布は、環境に大きく左右される。そのため、それらが媒介する感染症も環境に左右される。地球温暖化は感染症の拡大においても驚異となりつつある。
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