JS14-4:メタン生成アーキアと細胞外電子伝達
1産業技術総合研究所, 2北海道大学, 3東京大学
「細胞外電子伝達」は微生物の代謝機構の一つであり、微生物細胞と細胞外の固体状物質との電子授受反応を可能にする機構である。近年、微生物の細胞外電子伝達能を利用したエネルギー変換、物質生産、環境浄化に関する研究が盛んにおこなわれている。メタン生成アーキアはメタンを生成することで生育に必要なエネルギーを得るが、そのエネルギー(電子)源としては水素、ギ酸、酢酸、およびメタノール等の単純なメチル化合物といった、ごく限られた基質しか利用できないと考えられていた。しかし近年の研究により、ある種のメタン生成アーキアは細胞外電子伝達能を有し、固体との電子授受反応がそのエネルギー代謝に利用されることが明らかにされた。本講演ではメタン生成アーキアの細胞外電子伝達に関して、下記4種類の代謝反応について近年の研究動向を踏まえて概説する。
(1) 固体酸化鉄の還元:2002年にBondらは数種のメタン生成アーキアが水素の存在下で固体の酸化鉄粒子を還元することを見出した。また近年、多くの高温性メタン生成アーキアも同様の活性を持つことを我々のグループは明らかにしている。鉄の還元それ自体はメタン生成アーキアの増殖をサポートせず、むしろメタン生成および増殖に阻害的に働くため、その生態学的な意義についてはいまだ議論の余地が多い。
(2) 鉄腐食メタン生成:2004年にDinhらはある種のメタン生成アーキアが金属鉄を唯一の電子源としてメタンを生成することで生育し、また同時に金属鉄の腐食を大幅に促進することを報告した。これはメタン生成アーキアが細胞外電子伝達に依存したエネルギー代謝により生育可能であることを示した初めての例である。
(3) 電極依存的メタン生成:2009年にChengらはある種のメタン生成アーキアが負の電位を印加した炭素電極を唯一の電子源としてメタンを生成することを明らかにした。
(4) 電気共生によるメタン生成:2012年に我々のグループは導電性の酸化鉄鉱物を流れる電流が2種類の微生物の代謝を電気的に接続することで共生的代謝を成立させうることを実証した。また同年、メタン生成アーキアが電気エネルギーを受け取る側の微生物として機能しうることを実証した。電気共生によるメタン生成はメタン生成アーキアの細胞外電子伝達の生態学的な意義を説明するうえでも重要な発見であると考えている。
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