JS9-4:ジャガイモ根圏の分子生態学的解析及びそうか病防除のための土壌改良資材・有用微生物の選抜
1片倉チッカリン株式会社, 2長崎県農林技術開発センター, 3鹿児島県農業開発総合センター, 4北海道農業研究センター
我々のグループではジャガイモ主要産地におけるそうか病抑制効果を有する可能性のある肥料・資材、有用微生物の評価・選抜とジャガイモ根圏の分子生態学的及び植物病理学的解析に関する研究を実施している。肥料・土壌改良資材等を施用したジャガイモ根圏からの共生微生物を分離し、ポットでの小規模室内実験系を中心にした有用微生物候補菌株の選抜を行っている。
長崎県農林技術開発センターと鹿児島県農業開発総合センターのそうか病を人為的に発生させた精密圃場で、大麦醗酵エキスの種芋浸漬処理(5倍希釈液に数秒間浸漬)または圃場全面への散布による全層施用(500 kg/10a)を行い、栽培期間中の土壌について化学性と微生物性の経時的な変化を調査した。各試験地における土壌の化学性については大麦醗酵エキスの施用による大きな影響は見られなかった。土壌の微生物性は大麦醗酵エキスの施用で糸状菌及び細菌が増加する傾向がみられた。一方、そうか病の発生については、大麦醗酵エキス処理によって軽減する傾向がみられた。
以上の結果から、大麦醗酵エキスの施用によるそうか病の軽減効果は、ジャガイモ根圏、特に塊茎の微生物相の変化に起因するものと推察された。そこで、ジャガイモそうか病を軽減する可能性のある有用微生物の探索を目的として、無処理区と大麦醗酵エキス施用区の萌芽2週目(長崎県)あるいは収穫時(鹿児島県)の塊茎表皮からR2A培地を用いて共生細菌の網羅的な分離培養と多様性解析を行った。各処理の違いによって、微生物の分離比に差がみられた。現在、大麦醗酵エキスの施用がジャガイモ塊茎共生細菌の多様性に及ぼす影響について検討中であり、それらの詳細について報告する予定である。
農業生産現場では、土壌の微生物相に変化をもたらす有機質資材と、そうか病の軽減効果に関与する微生物を組み合わせた、ジャガイモそうか病に対する総合的な防除技術の確立が望まれている。これまでに、米ぬかや醗酵鶏糞を用いた栽培試験によるそうか病の抑制効果について検討し、有用微生物の選抜についてもジャガイモ表皮から分離した候補菌株を用いて実施している。これらの試験からそうか病軽減効果の認められたものを組み合わせることによって、そうか病防除に効果的な実用性の高い手法の探索を進める予定である。
keywords:ジャガイモそうか病,共生細菌,有機質資材