JS8-1:ホソヘリカメムシ-Burkholderia共生系からひも解く共生微生物の進化
産総研・北海道センター
多くの動植物がその体内に共生微生物を持ち、緊密な相互作用を行っている。マメ科植物−根粒菌の共生にみられるように、多くの共生系では共生微生物の母子間伝播を伴わず、環境中から獲得することが知られている。このような共生微生物の環境獲得を行う生物では、特異的共生関係を維持するために2つの機構、すなわち “partner-choice”(いかに良い相手を選ぶか?)と “partner-fidelity”(いかに良く働かせるか?)が重要だと考えられている。宿主が持つこれら2つの機構については多くの知見がある一方、共生微生物にみられる特異的共生の維持機構やその進化についてはほとんど研究がなされていない。本研究では、ホソヘリカメムシ−Burkholderiaモデル共生系を対象に、共生細菌と近縁な非共生性細菌の感染比較を通して、共生細菌が持つどのような能力が共生の成立・維持において重要なのか調査を行った。
ホソヘリカメムシは、環境土壌中からBurkholderia属細菌の特定の系統群(SBE, Stinkbug-associated Beneficial and Environmental group)を選択的に獲得し、消化管に発達する袋状組織(盲嚢)に保持することが知られている。SBEを含む5綱15属の細菌17種をホソヘリカメムシに経口接種し盲嚢への定着率を調査したところ、SBE以外に2種の細菌(SBEの近縁種であるBurkholderia fungorumとBurkholderia属の外群にあたるPandorea属の1種)が盲嚢へ感染・定着することが明らかとなった。これら2細菌が感染した盲嚢は肥大化が起きず細菌の定着が不十分であることが示唆された。このような感染・定着異常にも関わらず、これら2細菌に感染したカメムシは、非感染個体に比べて高い生存率、成長速度、体サイズを示し、これら2細菌はSBEにも匹敵する高い適応度効果を持つことが分かった。一方、競合感染実験の結果これら2細菌はSBEに比べて盲嚢への感染力が著しく低い事が明らかとなった。以上の結果は、一般的に共生微生物の特徴と考えられている「共生器官への感染能力」や「適応度効果」は必ずしもSBEに特徴的な性質ではなく、高い“感染競合力”こそがSBE系統において進化した特徴的な能力であることを示している。
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