JS9-1:微生物生態的視点からの土壌病害防除技術の開発
北農研
政府による今後の大規模な農業改革政策を控え、減農薬を通した人間や環境に対する安全性の向上や農産物の高品質化を通した国際競争力の向上が日本農業に強く求められている。特に有効な手段が少ない土壌病害の防除については、上記の要求を満たした上での早急な問題の解決が求められている。本ミニシンポジウムでは、平成26年度から始まった内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)」(通称名SIP)の「持続可能な農業生産のための新たな総合的植物保護技術の開発」における実施課題の1つである「ジャガイモそうか病防除のための新規栽培体系の開発」で現在までに得られた研究成果の報告を行う。
本講演では、最初に従来の植物病理学や土壌微生物学で行われてきた古典的な生物農薬や微生物資材の開発研究の問題点を検証し、なぜ農業における有用微生物への期待が大きい中で研究が長期間にわたり停滞してしまっているのか、という(日本の)農業有用微生物研究の厳しい現実を直視し、問題点を整理・提示したい。次に、それらの問題点の解決ための微生物生態学的視点の有用性・重要性についての私見を紹介したい。即ち、農業有用微生物の利用の対象となる農業現場の圃場には、室内実験系では再現できない多様な物理・化学環境(因子)や、未知の複雑かつ無数の生物間相互作用が存在する。このような背景の中で特定の有用微生物(群)を農業に都合よく利用するためには、微生物生態(工学)的な視点が必須であるように思われる。それらの知見を賢く活用することにより、農業における有用微生物(群)の探索、選抜、活用等の全ての段階において新しい視点の導入が可能な時代になったことを強調したい。
最後に上述のような新しい農業有用微生物研究の例として、我々のグループがSIPの課題として実施している「ジャガイモそうか病防除のための新規栽培体系の開発」の概要を説明したい。本研究は、ジャガイモ根圏の分子生態学的及び植物病理学的解析を通して、そうか病抑制効果を有する肥料・資材や有用微生物を効率的に選抜し、微生物生態(工学)的な視点から合理的な、新しい土壌病害防除技術の開発の可能性を提案するものである。圃場条件下での有用微生物(資材)の効果の安定化についての議論の場を提供したい。
keywords:sustainable agriculture,soil borne disease,disease control,PGPR,organic soil amendments