JS7-2:Zymomonas mobilis の耐熱性と耐熱化
1山口大学農学部, 2山口大学大学院医学系研究科, 3山口大学中高温微生物研究センター
山口大学中高温微生物研究センターは、東南アジア各国との長期にわたる共同研究の成果として、中温微生物より比較的高い温度で生育可能な微生物群が亜熱帯から熱帯地域に生育していることを明らかとし、これらを「中高温微生物」と名付けた。我々は、この「中高温微生物」を利用して、次世代発酵技術である高温発酵の開発や耐熱性の原理の理解を試みている。だがそもそも、微生物の耐熱性とはどのような遺伝子資源によって達成されているのだろうか。
我々は耐熱性に関わる遺伝子を明らかにするために、2つのアプローチを試みている。1つは比較ゲノム解析や網羅的遺伝子破壊による熱感受性化遺伝子情報を基にした「耐熱性遺伝子」のリスト化。もう1つは、ゲノム変異による微生物の耐熱化により「変異した遺伝子」のリスト化である。これらによって得られた情報を基に、耐熱性に関わる遺伝子および耐熱性に必要な機能を明らかにすることを目指した。
我々は、エタノール生産性細菌 Zymomonas mobilis を対象として、これらの研究を実施している。まず、耐熱性を有する Z. mobilis TISTR 548 において、トランスポゾンをランダムにゲノムへ導入し、テトラサイクリン耐性により取得した変異株が生育限界温度下において生育できなくなることを利用して、30の耐熱性遺伝子を決定した。これらの遺伝子は、エネルギー代謝、膜の安定化、DNA修復、tRNA修飾、シャペロン・プロテアーゼ、翻訳と翻訳調整、細胞分裂、転写調節といった機能に分類された。さらに、膜の安定化に関する遺伝子の幾つかはエタノール耐性との関連が明らかとなった。一方、ゲノムへの変異による耐熱化は、Z. mobilis CP4とTISTR 548とをそれぞれの生育限界温度付近で植継ぎを繰り返し、耐熱化株をそれぞれ取得した。これらの株を全ゲノム配列決定による変異解析を行ったところ、シグナル伝達機構、トランスポーター、膜の安定化、そしてDNA修復に関係する遺伝子に変異が確認された。これらの結果から、耐熱性に関与する遺伝子の機能と耐熱化に関わる遺伝子の機能にはある程度類似性が見られ、さらに、膜の安定性に関わる因子が耐熱性と大きく関わることが示唆された。
なお本研究はJSTのALCAプロジェクトの一環として行われた研究の一部である。
keywords:中高温微生物,耐熱性,適応育種,ゲノム解析