JS5-4:バイオ肥料を利用した水稲の増収減肥栽培技術の実用化
1東京農工大学大学院農学研究院, 2日本大学生物資源学部, 3京都府農林水産技術センター農林センター環境部, 4岩手生物工学研究センター
1970年代頃から、土壌微生物学分野の研究において、作物根圏に生息する一群の微生物が様々な養分吸収を促進させ、作物の生産性向上に役立つことが明らかとなってきた。これらの研究は、当初、収量増加を主目的としたものであったが、化学肥料削減による低コスト化や環境負荷軽減に資するものとして近年新たな注目を集めている。その実用化の取り組みは、東南アジアの国々で盛んに行われ、例えば、フィリピンでは、Azospirillum属細菌を原体微生物とした水稲、トウモロコシ用のバイオ肥料「BIO-N」の開発に成功し、現在フィリピン政府がその全土への普及を図っている。一方、日本国内においては、前川製作所が、定植時の植え痛みを低減させるAzospirillum属製剤として「イネファイター」を販売している。しかし、水稲への施肥量を低減させて収量を維持あるいは増加させることを特徴にしたバイオ肥料は日本では開発されていない。私達は、農工大圃場からイネの発根を促進し、窒素吸収を促進するBacillus pumilus TUAT1株をキャリアに保持させたバイオ肥料を作成し、水稲への接種試験を平成20年度より開始し、ポットと圃場試験で、施肥量を削減しても慣行と同等の収量を維持できる可能性を得た。平成22年度からは、複数の研究機関の協力のもと、本バイオ肥料施用効果の圃場試験等を実施し、①本バイオ肥料施用により10~35 %増収し、増収の要因は根域の増加に伴う、穂数の増加であること、②本バイオ肥料は水稲乾物あたりの窒素濃度を上昇させるが、生物窒素固定の寄与は殆どなく、土壌中の窒素成分を効率的に吸収すること、③20~30 %窒素肥料を減肥しても慣行施肥条件と同程度の収量が得られること、④本バイオ肥料の菌は、水稲の株元に生息し、新しい分けつに分布可能なこと、⑤理由は不明であるが、芽胞体の接種が高い接種効果を示すこと、⑥TUAT1株の全ゲノム解析から、Bacillus pumilus B6033株にゲノム構造が最も近いこと、⑧TUAT1株は「ひとめぼれ」の発根は促進するが、インド型イネの「タカナリ」の発根を阻害すること、⑨上記2品種の組換え自殖系統を用いたゲノムアソシエーション解析から、第3染色体上にある1つの遺伝子がTUAT1の発根促進に関与している可能性があること等が分かってきたので、これらに関して紹介する。
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2015/10/22修正