JS5-3:水稲根メタン酸化細菌の窒素固定能のメタプロテオーム解析、組織局在性と分離まで
1東北大学大学院生命科学研究科, 2東北大大学院工学研究科, 3北海道大学低温科学研究所, 4北海道農業研究センター, 5名古屋大学大学院農学研究科
水田は温室効果ガスメタンの主な発生源の一つであり、水稲根圏に棲息するメタン酸化細菌はメタン酸化に貢献している。メタン酸化細菌はメタンを唯一の炭素源とエネルギー源として生育できる微生物である。これまで、これらのメタン酸化細菌のほとんどが窒素固定機能遺伝子を有し、窒素固定できることが研究室レベルで報告されているが、重要な棲息場所である水田圃場で機能しているかどうか証明されていない。先に、我らのグループは、窒素無施肥圃場の水稲根においてメタン酸化と窒素固定が同時に活性化され、それが植物共生系によって制御されていることを報告した(Bao et al. AEM, 2014)。本研究では、水稲根においてメタン酸化と窒素固定活性を担っている微生物を明らかにするために、窒素無施肥圃場の水稲根細菌群集のメタプロテオーム解析を行った。データベースとして、当該圃場のイネ根共生細菌のメタゲノム解析結果を使用した。その結果、Methylosinusを含むMethylocystaceae科のtype IIメタン酸化細菌の窒素固定遺伝子をコードしているタンパク質NifH, NifD, NifKとメタン酸化機能遺伝子メタンモノオキシギナーゼをコードしているタンパク質 (PmoCBAとMmoXYZC)を含むメタン酸化過程に関わるタンパク質が同時に優勢的に検出された。したがって、水稲根のtype IIメタン酸化細菌が圃場レベルで窒素固定に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。さらに、Ma450プローブを用いてこれらtype IIメタン酸化細菌のイネ根の局在性を調べるためCARD-FISHを行った結果、type IIメタン酸化細菌がイネ根の表皮と中心柱の維管束周辺に棲息していることが明らかとなった。さらに、限界希釈法によるメタン酸化細菌の分離を行い、窒素固定に重要な役割を果たしていると思われるMethylosinus属細菌の分離に成功した。分離株は窒素源無添加培養実験では、増殖がみられ、メタン酸化窒素固定能を有していることが示唆された。本研究では、窒素無施肥圃場における水稲根の表皮と中心柱のtype IIメタン酸化細菌がメタン酸化によって生じるエネルギーを窒素固定に回したことも考えられる。今後これらのメタン酸化細菌が水稲根で窒素固定活性を示すかについて、活性レベルの検証が必要である。
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