JS4-2:マイクロ流体デバイスを用いた分裂酵母の一細胞計測システム
東京大学大学院総合文化研究科
同一遺伝型の細胞であっても遺伝子発現量や成長率などの表現型は個々の細胞によってばらついていることが広く認識されるようになり、一細胞レベルでの表現型の不均一性と集団レベルでの表現型がどのように関係しているのかを明らかにすることが次の課題となっている。ある外部環境における一細胞レベルでの表現型分布を調べるにあたって、典型的なBatch cultureでは細胞の増殖とともに細胞密度や培地成分の変動が生じてしまうという問題がある。また、実測される集団内の表現型分布は集団ダイナミクスによるバイアス(増殖に有利な表現型の割合が増す)が含まれていることにも留意しなければならない。
このような問題を回避するために、定常環境に置かれたある特定の細胞系列(old pole lineages)を長期間、高スループットで追尾計測できるマイクロ流体デバイスが大腸菌において既に報告されており、我々はこれを分裂酵母に応用した計測系を構築した。この系ではChemostatのように新鮮な培地を常時供給し続け、かつ余剰の細胞を排出することができるため、外部環境の定常性を保証しながら一細胞レベルでの顕微鏡観察ができる。完全培地環境の下で1,000以上の系列を数十世代にわたって追尾計測した結果、細胞の分裂率と死亡率が少なくとも計測期間内において一定であることが分かった。この結果はマイクロ流体デバイス内部で安定的な細胞成長が実現できることを実証するとともに、分裂酵母のold pole lineagesにおいては細胞老化が生じないことを示唆している。また、いくつかの異なる培養環境での計測結果から、非ストレス環境では分裂率と死亡率の間に正の相関があることが分かった。
一方、我々は大腸菌について平均分裂間隔時間とその分散の間に線型関係が成立することを示唆するデータを得ており、上記計測系を用いて分裂酵母においても同様の関係が成立するかどうかについて検討中である。
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