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S31-04 : 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析: 土壌管理への展望
Posted On 20 10月 2014
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京都大学 人間・環境学研究科
一握りの中にも数千・数万の細菌と真菌が息づく土壌は、科学が対象とするシステムの中でも最も複雑なものの一つである。一方で、地球レベルで喫緊の課題となっている温暖化、土壌流失、土壌汚染、食糧不足等の問題に対処するために、土壌圏の動態を包括的に理解する枠組みが求められている。本講演では、土壌真菌と宿主植物の共生ネットワークに関する次世代シーケンシング解析の成果を紹介しつつ、生態学の基礎的知見がもたらす土壌管理上の方向性について議論したい。農地であれ、森林であれ、ある植物種のバイオマスが増加すると、その相利共生(もしくは寄生)菌が増加する。この真菌群集構造の変化が個々の植物種に与える影響を予測するために、生物種間の共生ネットワーク構造を大規模かつ標準化された手法で解明する手法を確立した。サンプリングから次世代シーケンシング、ネットワーク理論を用いたデータ解析までを統合したこの手法は、土壌中の生物間相互作用の動態を、時間軸および空間軸に沿って解明することを可能にする。原理的にあらゆる生物群をDNA情報に基づいて解析できる包括性と、柔軟な理論的基盤がもたらす拡張性により、これまで「ブラックボックス」とされてきた土壌生物圏の動態を定量的に評価できるようになると期待される。こうした技術的進歩により、今後は対象生物群や研究分野の垣根を越えて、一人の研究者が土壌生物圏の全体像を把握できる時代がやってくると考えられる。多様な要素(種)が相互作用することで「必然的に」生まれてくるシステムの安定性(複雑性が担保する安定性)について、基礎生態学の観点から展望を語りたい。
keywords:真菌,共生ネットワーク,次世代シーケンシング,生態学,土壌生態系