S12-03 : 植物病原糸状菌の寄生性分化:半身萎凋病菌の病原性系統とレース
Posted On 20 10月 2014
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千葉大学大学院園芸学研究科
Verticillium dahliae(半身萎凋病菌)は土壌伝染性の植物病原糸状菌で、幅広い双子葉植物に萎凋性病害をもたらす。本菌の菌株は複数種の植物に病原性を示すが、その宿主範囲は菌株ごとに様々である。また、トマトに病原性を示す系統では、抵抗性品種に対するレース分化も認められる。真性抵抗性遺伝子Ve1を持つトマト品種はレース1に抵抗性を示すが、レース2はこれを打破する。レースを決定する非病原力遺伝子VdAve1は、レース間のゲノム配列比較によりすでに明らかにされている。レース1はVdAve1を持ち、その翻訳産物がVe1を持つトマトに認識されるため、抵抗性が誘導されて感染できない。一方でレース2はVdAve1を欠くため、Ve1を持つトマトを発病させる。このようなレース間の遺伝的相違に加え、本菌の菌株間では核型やゲノム配列が様々に異なっており、病原性分化との関連性が指摘されている。本菌の完全世代はこれまで確認されておらず、また、交配型の偏りや菌株ごとの核型の多様性も考慮すると、各菌株の遺伝的多様化に有性生殖が関与している可能性は低い。一方で、本菌は擬有性生殖により遺伝的交雑を行うことが知られている。ただし、核型の多様化と擬有性生殖の関係については不明な部分が多い。近年では、擬有性生殖を用いた菌株間の人為的な交雑により、特定の植物に対する病原性を決定する遺伝因子について部分的な情報が得られつつある。また、最近報告された新レース(レース3)の遺伝型に関する知見も得られつつある。これらも含め、本菌の病原性およびレース分化に関する遺伝的な解析結果を紹介する。
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