O31-08 : 沿岸域の継続的な定点調査による菌様原生生物ラビリンチュラ類の生態学的調査
Posted On 20 10月 2014
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1甲南大院 自然科学, 2甲南大 統合ニューロバイオロジー研究所, 3大阪府立環境農林水産総合研究所, 4甲南大・理工
ラビリンチュラ類はストラメノパイル生物群に属する無色の菌様原生生物である。海洋の有機物分解はバクテリアを起点とした微生物ループによって行われることが一般的に知られているが,真核生物の分解者はほとんど注目されてこなかった。そんな中,真核従属栄養生物であるラビリンチュラ類がその生息域の広さと現存量の大きさから,海洋生態系の中で重要な役割を果たしている可能性が示唆されてきている。しかし,ラビリンチュラ類が年間を通してどのような現存量変動をしているのか,どの属や種が生態的に重要なのかといった情報はほとんどない。そこで本研究は,大阪湾と夙川河口で1ヶ月ごとに調査を行い,ラビリンチュラ類の年間を通した現存量変動と,構成系統群の季節変動の観測を目的とした。松花粉釣り上げ法とMPN法を組み合わせた方法による現存量の推定と,18S rRNA遺伝子配列の分子系統解析により分離株の系統的位置の特定を行った。その結果,夙川河口では春と夏に現存量が急激に増減する現象が観測された。また,大阪湾に比べ夙川河口の方が10倍程度多い現存量であり,陸起源有機物の供給が細胞数に影響している可能性が考えられた。さらに生態効率を考慮して,ラビリンチュラ類の炭素量バイオマスをバクテリアと比較すると,海洋生態系に与える影響は無視できるものではないことが推測された。また,生息していた系統群は夙川河口,大阪湾で異なっており,それぞれ違った季節変動を行っていることが明らかとなり,水温,塩分,栄養源によって系統群ごとに棲み分けている可能性が考えられた。
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