JS21-3:バイオフィルムは自然突然変異株作製装置そしてリザーバである
筑波大・生命環境系
細菌は単細胞生物として、互いにわれ関せずに生きていると長い間信じられてきた。しかしながら、その細菌も会話をし、集団生活をしていることが明らかになってきた。すなわち、言葉としてシグナル化合物を用いて、細菌間でコミュニケーションをしながら、バイオフィルム(BF)と呼ばれる組織化された集団で環境適応し生活していることがわかってきた。それらは、健康(感染症・プロバイオティクス)、食品(発酵・危害菌)、金属腐食、水処理(活性汚泥・膜処理)、BFなど正負の両面で様々な産業に関わっている。以上の背景より、バイオフィルムおよびCell-cell communicationの研究が世界中で盛んに進められている。
これまで、微生物は栄養が枯渇したりあるいは環境負荷条件下にさらされたりすることによりバイオフィルムは形成することが報告されている。つまり、バイオフィルムは耐えるために形成された環境適応形態と認識されている。近年、BFのさらに大きな特徴の一つとしてBF内に多様な細胞(variants:自然突然変異株等)の出現が挙げられるようになった。つまり、BFは自然突然変異株のリザーバーとして、環境適応のみでなく進化的側面からも重要な「場」であると考えられる。しかし、現在の解析技術ではBF中から現れる突然変異株の「数」のみしか解析出来ず、BF中における自然突然変異株の出現の局在、さらには、その出現とBF構造の関係性に全くアプローチ出来ない。また、BF内は生細胞のみでなく死細胞も共存しており、生と死が入り乱れた場でもあるが、それが単に物理的・栄養饑餓的に死ぬのか、能動的に制御され死ぬのかなどは全く明らかにされていない。BF内に多様性の出現と生と死が混在する現象は興味深いが全く未開拓である。
そこで、共焦点レーザー反射顕微鏡解析による新規ライブイメージング技術COCRM法を開発し、BFの三次元構造をありのままで観察・解析することに成功した。本法により、BFの構造及びその内部の1細胞(例:自然突然変異株)あるいは目的遺伝子発現の3次元的局在遷移を継時的に簡便に解析することが可能になった。その結果、BF中では液体培養と比較して、自然突然変異株の出現頻度さらにそれらの出現に局在があることが明らかになった。つまり、バイオフィルム内では自然突然変異株の出現が能動的に制御されていることが示唆された。
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