OH-04:比較ゲノム解析が明らかにする亜硝酸酸化細菌Nitrospiraの生態学的ニッチ
1早大院・生医, 2産総研
【背景】亜硝酸酸化は排水処理場における生物学的窒素除去プロセスの重要な反応であり、主にNitrospira属に属する細菌群が担っている。排水処理槽内には系統学的に異なる2種類のNitrospira群が生息しており、生理学的性質の違いを基に棲み分けしていることが報告されている。しかしながら、Nitrospiraは分離培養が困難な微生物であるため、その性質の多くは調査できず、Nitrospira群の棲み分けは謎に包まれている。本研究では、排水処理槽内から分離培養した2系統のNitrospiraのゲノム配列を比較解析することで遺伝学的情報や生理学的性質の違いを調査し、排水処理槽内での棲み分けの機構を明らかにすることを目的とした。
【方法】分離培養した2系統のNitrospiraであるND1株とNJ1株からゲノムDNAを抽出し、ショットガンシークエンスによりゲノム配列を再構築した。再構築したゲノム配列からCDS(候補遺伝子)領域を決定し、NCBI、DDBJで各CDSを同定し、両株の代謝経路を予測した。また、特定の遺伝子群に関しては、遺伝子発現量を逆転写PCRで確認した。
【結果】ND1株とNJ1株のゲノム配列において、運動性、窒素固定に関わる遺伝子群に顕著な違いが確認された。ND1株は鞭毛合成に関わる遺伝子群と走化性に関わる遺伝子群のほとんどを保持しているのに対し、NJ1株はこれらの遺伝子をほとんど保持していなかった。そのため、ND1株は生息に適した環境へと移動することが可能であると推察された。次に、ND1株は窒素固定に必要な亜硝酸還元酵素を複数種類保持しており、亜硝酸をアンモニアへと還元し、窒素源として利用していると考えられる。一方、NJ1株は既知の亜硝酸還元酵素を保持していない代わりに、細胞外のアンモニアを取り込むのに必要なアンモニア透過酵素を複数保持しており、アンモニアを直接窒素源として利用していると予測された。さらに、窒素源としてアンモニアを培地に添加することで、アンモニア透過酵素、亜硝酸還元酵素の遺伝子発現量が変化することを確認した。以上のことから、ND1株とNJ1株は運動性、窒素固定に関わる遺伝子に顕著な違いが存在し、これらの違いが排水処理槽内における2系統のNitrospira群の棲み分け、生存競争に大きく寄与していると考えられる。
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