PH-125:滑走性マイコプラズマ(Mycoplasma mobile)の全ゲノムクローニング
1筑波大院・生命環境, 2産総研・生物プロセス
微生物は、多数の遺伝子が連動することで発現する高次機能を持つことが知られており、例えば感染性・病原性・運動性などが挙げられる。これらの高次機能を解明することは微生物学の発展に大きく寄与すると考えられるが、多数の遺伝子を含む巨大なゲノム断片を扱う困難さゆえ、その手法は限定されていた。この問題の克服のため、本研究ではマイコプラズマのゲノム断片を操作することで、その高次機能を解明することを目的とした。マイコプラズマはゲノムサイズが極めて小さい、全ゲノム移植に唯一成功した細菌である。本研究では、滑走するマイコプラズマであるMycoplasma mobileを用い、その全ゲノムを酵母内にクローニングしたのち、滑走しないマイコプラズマであるMycoplasma capricolumへと移植し発現させることで、滑走運動に関わる遺伝子の特定と滑走機構の解明を目指す。そのため、まずM. mobileの巨大ゲノムのクローニング技術を確立した。
クローニングのためのベクターは、酵母人工染色体(Yeast Artificial Chromosome: YAC)ベクターを骨格とした。その中へ、大腸菌とマイコプラズマの複製起点、酵母・大腸菌・マイコプラズマそれぞれで働く選択マーカー遺伝子等を導入し、全長12,227 bpのシャトルベクターを構築した。その後、クローニングに必要な領域をLA-PCRにより増幅し調製した。LA-PCRのプライマーは、増幅断片にクローニング対象ゲノム(インサート)の末端配列と相同な配列を付加するよう設計した。
インサートとしてM. mobileの全ゲノムを用いた。M. mobileを培養したのち、菌体をアガロースゲルの中に包埋し、界面活性剤とプロテアーゼにより細胞膜とタンパク質を溶解させ、ゲル内にゲノムのみが残るよう処理した。そのゲルを複数の制限酵素で処理したのちパルスフィールドゲル電気泳動を行ったところ、M. mobileのゲノムのサイズや制限酵素サイトはデータベース上の情報と一致していることが確認できた。制限酵素によって処理したゲノムをゲルから抽出し、これをインサートとして用いて酵母の形質転換を行った。その結果、複数のコロニーが得られた。今後、全ゲノムクローニングの確認およびマイコプラズマへのゲノム移植を行う予定である。
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