PG-097:深部地下高温油層環境に生息する新規Deferribacteres門酢酸酸化細菌の分離と生理生態機能解析
1産総研・生物プロセス, 2産総研・地圏資源, 3国際石油開発帝石株式会社
地球上に存在する微生物の総数は1030個と概算され、実にその90%以上が無酸素環境に存在すると推定されており、嫌気性微生物の代謝が地球物質フラックスに与える影響は極めて大きいと考えられている。地球上に点在する深部地下高温油層環境は、無酸素環境の一つである。低浸透性で硬質な帽岩により数万から数百万年単位で地表から隔絶されており、炭素・電子供与体・電子受容体の流出入がほとんど起こらない。そのため、原油ならびにその生分解・熱分解に由来する有機酸やメタンが蓄積しており、特に酢酸は十数mMに達することもある。このことから、酢酸代謝は深部地下高温油層環境の炭素循環において重要な生物地球化学プロセスの一つと考えられている。これまで分子生態学的解析により、同環境において酢酸を利用可能と推定される微生物の存在は示唆されていたものの、分離培養例は極めて少なく、その生理生態には不明な点が多かった。そこで本研究では、深部地下高温油層環境に生息する酢酸代謝微生物の分離培養化と機能解析を目的とした。
国内油田の深部地下高温油層環境(深さ1000 m以上)は、一般的に50℃以上の高温で高圧の無酸素環境である。同環境から採取された油層水の化学分析結果から、酢酸の他に、鉄や塩の濃度が高いことが分かった。そこで、井戸元から採取した油層水を接種源に無機塩海水培地に酢酸を唯一の電子供与体、三価の鉄を電子受容体として添加し集積培養を重ね、アガーシェイク法による分離を試みたところ、最終的に新規酢酸酸化-鉄還元細菌ANA株の純粋分離に成功した。ANA株は、酢酸を基質に、25-60℃、pH 7.0-8.0、NaCl濃度0-6%で生育可能であり、現場環境に適応した生理学的特徴を有していた。16S rRNA遺伝子に基づく分子系統学的解析の結果、ANA株は鉄還元細菌Deferribacteres門に属するものの、最近縁種Calditerrivibrio nitroreducensとは90%程度の相同性しか示さず、少なくとも新属新種レベルで新規な細菌であった。また、ANA株の配列が現場油層水からも検出されたことから、現場に確かに存在することが分かった。以上のことから、ANA株が深部地下高温油層環境における炭素及び鉄フラックスに重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
keywords:Deep subsurface oil field,Carbon cycle,Isolation and characterization,Deferribacteres,Acetate-oxidation