PM-219:植物の葉表面から単離したキチン分解細菌による病原性真菌の増殖抑制
1宇都宮大学大学院工学研究科(宇大・院工), 2宇都宮大学工学部(宇大・工)
【目的】微生物などを生きた状態で製剤化した生物農薬は、使用回数の制限がないこと、薬剤耐性菌の出現リスクがないことなどが評価され、持続型農業の実現に向けて利用が拡大している。しかし、散布した微生物の植物への定着性が低いなどの課題も残されており、長期間安定して病害防除効果が持続する新たな生物農薬の開発が求められている。本研究では、真菌細胞壁の構成多糖の1つであるキチンに着目し、キチンを分解することで細胞壁を破壊する抗真菌活性を有する細菌の生物農薬への応用を目的とした。
【方法】キチン分解細菌を環境試料から単離し、その病原性真菌の増殖抑制効果を検証した。植物の葉表面に生息している細菌は葉への定着性が高いと考え、モミジイチゴなどの野外に生息している植物の葉を対象にコロイド状キチンを1 wt%添加した寒天プレートを用いてキチン分解細菌をスクリーニングした。キチン粉末を85 wt%リン酸水溶液に溶解し、コロイド状キチンを調製可能である。キチン寒天プレート上のコロニー周辺にハロー(透明帯)を形成する細菌をキチン分解細菌と判定した。モデル病原性真菌としてキャベツ硫黄病の原因菌であるFusarium oxysporum f. sp. conglutinansを用いて、キチン寒天プレート上でキチン分解細菌と真菌を生育させ、真菌による増殖阻止円の形成を試験した。
【結果と考察】モミジイチゴ、ヒサカキ、ウワミズザクラ、エンコウカエデの4種類の葉から6株のキチン分解細菌を単離した。16S rDNA配列解析の結果、このうち3株は放線菌に分類されるCurtobacterium属細菌であった。これらの放線菌は、他のキチン分解細菌と比べて病原性真菌に対し高い増殖抑制効果を示した。土壌から単離された放線菌に比べて葉表面から単離された放線菌は少なく、さらにキチン分解活性の有無を試験した報告例は極めて少ない。放線菌が生産する抗生物質など多くの生理活性物質が医薬品や農薬として実用化されていることから、葉圏から単離された本放線菌の葉表面への定着性や生理活性物質の分析を進めることで、植物の葉表面への定着性に優れ、より効果的に真菌の増殖を抑制する技術への応用が期待される。
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