PM-220:病原性真菌を分解する細菌の単離とその真菌増殖抑制技術への応用
宇都宮大学工学部
【目的】微生物を生きたまま製剤化した生物農薬は環境への負荷が小さく、病原菌に抵抗性が生じにくいため農作物の病害防除に有効な手段として期待されている。生物農薬として利用される微生物には、植物表面での増殖が早く病原菌の生育場所を奪う防除機構が期待されるものの、散布した微生物の植物への定着性には課題があり、定着性の向上と長期間のより安定した防除効果が求められている。本研究では、真菌の細胞壁に含まれるキチンを分解することで病原性の真菌の増殖を抑制可能と考え、土壌試料からキチン分解活性の高い細菌を単離し、モデル病原性真菌の増殖抑制効果を試験した。
【方法】真菌の細胞壁はキチン、β-グルカン、マンナンなど複数の多糖から構成される。本研究ではキチン分解活性を有するものの真菌細胞壁を分解できない細菌を除くために、キャベツ萎黄病の原因菌Fusarium oxysporum f. sp. conglutinansをモデル病原性真菌とし、このフザリウムを分解する細菌を一次スクリーニングした。100 mg/Lカルベニシリンと共に0.5 wt%フザリウム菌体粉末を加えた真菌粉末混合寒天プレートを作製し、5種類のイチゴ栽培土壌試料を塗布して25℃で培養した。この寒天プレート中の真菌粉末を分解してコロニー周辺にハローを形成する細菌を単離した。次に、1 wt%コロイド状キチンを添加したキチン寒天プレートを用いて、これらの真菌分解細菌のキチン分解活性を試験した。これらのキチン分解細菌とフザリウムを同一のキチン寒天プレート上で生育させ、フザリウムの増殖抑制効果を試験した。
【結果と考察】5種類のイチゴ栽培土壌から19株の真菌分解細菌が単離され、このうち11種類がキチン分解活性を有した。これらのキチン分解細菌はCurtobacterium属やchitinophaga属などに分類され、菌種によってキチン寒天プレートでのハローサイズが異なるとともに、フザリウムに対して阻止円を作るものやフザリウムの菌糸を飲み込むものなどフザリウムの増殖抑制効果も異なった。このキチン分解細菌に加えキチンを散布することでキチン分解活性が向上し、真菌の細胞壁分解活性を向上させることができると期待している。今後はこれらの真菌分解細菌をキチンと共に植物の葉に散布し、フザリウムの感染防除効果を解析する。
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