PL-213:緑膿菌の細胞間コミュニケーションはアルギン酸生産によって選択的に阻害される
1筑波大学大学院生命環境科学研究科, 2東邦大学医学部微生物・感染症学講座
多くの微生物は環境中でバイオフィルムのような集団で存在しており、互いにコミュニケーションをとり合っている。微生物は集団においてシグナル物質を使った細胞間コミュニケーションを行い、バイオフィルム形成、毒素生産、呼吸といった集団行動制御することが知られているが、細胞間コミュニケーションが成り立つためにはシグナル物質が細胞に届き、受容体と結合することが重要である。環境常在菌で日和見感染菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)においては2種類のアシルホモセリンラクトン(acyl-homoserine lactone, AHL)シグナル物質である3-oxo-C12-HSLとC4-HSL、そして2種類のキノロンシグナルであるPQSとHHQを用いて細胞間コミュニケーションを行う。
興味深いことに、バイオフィルムにおける突然変異株の出現頻度は非常に高いことが報告されている。緑膿菌のバイオフィルムからは多種多様な突然変異株が出現することが知られているが、細胞外多糖であるアルギン酸を過剰生産するムコイド変異株は特定な環境において野生株と共存していることが報告されている。近年、緑膿菌ムコイド変異株は野生株と比べてよりシグナル物質生産や毒素生産が低いことが報告された。そのため、シグナル物質を多く生産する野生株などが存在する時に、細胞外多糖アルギン酸を過剰生産するムコイド変異株はそれらのシグナル物質に応答し、コミュニケーションができるのかについて興味をもち、研究を進めた。シグナル物質によって制御される遺伝子の発現を測定することで、ムコイド変異株はAHLに対する応答が野生株より低下し、さらにキノロンシグナルに対してはほとんど応答することができないことが示された。さらに、細胞外多糖であるアルギン酸の生産がムコイド変異株のAHLシグナル応答に影響を与えない一方、キノロンシグナル応答のみを阻害していることが示された。このことから、ムコイド変異株は野生株と共存するときに野生株からのキノロンシグナルに応答できないことで、集団中で異なる挙動を示す可能性が考えられる。集団中でこのような不均一性が生じることで、様々な環境変化に適応できると考えられる。
keywords:緑膿菌,細胞間コミュニケーション,ムコイド変異株,アルギン酸,バイオフィルム