PK-197:アンチセンス核酸による微生物群集での特異的な殺菌
1東京工業大学生命理工学部生命工学科生命情報コース, 2東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻
現在、抗生物質として利用されているものの多くは、抗菌スペクトルが広く、我々の健康や、環境を維持している多くの共生細菌まで殺してしまう。また、抗生物質の乱用は薬剤耐性細菌の出現を誘発するため問題視されている。そこで我々は、アンチセンス核酸を用いることにより、微生物群集の中からターゲットとする細菌だけを特異的に殺すことを目的とした本研究を立ち上げた。アンチセンス核酸は、人工的に合成したオリゴDNAやオリゴRNAあるいはオリゴ核酸類似体(ペプチド核酸、Phosphorothioate核酸、PMO核酸)などを指し、菌体内のmRNAに特異的に結合し、その翻訳を阻害する。この性質を利用して、標的細菌の生育に必須な遺伝子をコードするmRNAのリボソーム結合領域(Shine-Dalgarno配列)をターゲットとしたアンチセンス核酸を設計することにより、目的とする細菌だけを殺すことが可能になる。しかし、アンチセンス核酸は、培養液中に添加しても細菌の菌体内に取り込まれにくく、その取込効率の改善が大きな課題となっていた。また、どのような核酸あるいは核酸類似体がこの目的のために最適なのかについてもまだ充分に理解されていない。そこで我々は、まず大腸菌Escherichia coliをモデル系に、Polymixin B nonapeptideを用いて細胞膜に孔を空けることによって、アンチセンス核酸であるPhosphorothioate オリゴヌクレオチドを菌体内に導入しようとしている。
現時点では、E. coliの生育必須遺伝子に特異的に設計したアンチセンス核酸を菌体内に導入することが出来、また、E. coliに対して殺菌的に働いていることが確認できた。E. coliに対して用いたアンチセンス核酸の設計方法、菌体内への導入方法等を他の菌に対しても応用させていくことで、目的とする細菌を特異的に殺すことができると考えられる。この手法を応用し、将来的にはバイオフィルムや皮膚細菌叢等などの複雑な細菌集団から特異的に1種類の菌だけを殺すことを目指している。
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