PJ-173:メタン添加水槽におけるゴエモンコシオリエビの外部共生菌の変遷
1JAMSTEC, 2日大・生命科学センター, 3横浜国大院・環境情報
沖縄の深海熱水噴出域には大量のバクテリア(外部共生菌)を腹側の体毛に付着させたゴエモンコシオリエビが生息している。外部共生菌相には、独立栄養性の硫黄酸化細菌とメタン酸化細菌が優占化しており、ゴエモンコシオリエビはそれら外部共生菌をエサとして食べることが明らかとなっている。ここで興味深いのは、体に付着するメタン酸化細菌を栄養源とする生物は、ゴエモンコシオリエビが地球上で唯一である点である。また、メタン酸化細菌はメタンのみを炭素源とエネルギー源とすることから、メタンを与えることでゴエモンコシオリエビを飼育できると期待された。そこで、本研究ではメタンだけを添加した水槽でゴエモンコシオリエビを長期的に飼育し、その菌相の変遷から外部共生菌相の理解を深めることを目的とした。
メタン添加飼育前後(0、3 、12ヶ月)のゴエモンコシオリエビを用いて系統解析や FISH 解析で菌相構造の変遷を調べた。また、飼育後の個体におけるメタン酸化活性や硫黄酸化活性を測定した。飼育前の菌相ではγプロテオバクテリアに属するMethylococcales(メタン酸化細菌)とThiotrichaceae(潜在的硫黄酸化細菌)、εプロテオバクテリアに属するSulfurovum(硫黄酸化細菌)でほぼ占められた。飼育後の菌相ではメタン酸化活性をもつMethylococcalesを毛に維持していた。また、Thiotrichaceaeは多様性が減少し、Cocleimonasに近縁なものが優占した。分離培養した結果、従属栄養性の硫黄酸化細菌であることが分かった。また、飼育後は独立栄養性のSulfurovumが検出不可であった。メタン飼育後の個体は硫黄酸化活性をわずかに示したが、この活性はCocleimonasに近縁な外部共生菌によるものと示唆された。一方で菌相解析や分離培養実験から飼育後の菌相にはメタノール資化性菌やCFBなどの従属栄養性細菌の優占化が見られた。
以上の結果、メタン添加水槽で独立栄養性の硫黄酸化細菌は生育しないと示された。また、メタン添加水槽という閉鎖的環境ではメタン酸化細菌だけでなくメタンを出発物質として二次的、三次的に生育する外部共生細菌の生育が明らかになった。そのため、現場のゴエモンコシオリエビの菌相が系統的に限定されている大きな要因は有機物の顕著な蓄積が起こらない環境にあることが示された。
keywords:メタン酸化細菌,外部共生,深海熱水噴出域