PJ-181:細菌間メンブラントラフィックを紐解く ーメンブランベシクルの形成及び付着機構解析ー
1筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物資源科学専攻, 2筑波大学大学院 生命環境系
多くの細菌はメンブランベシクル(MV)と呼ばれるナノサイズの膜小胞を形成し、環境中に放出している。MVは菌体膜構造を維持するだけでなく、毒素や核酸、細胞間シグナル物質などの様々な細菌由来の物質を内包しており、細胞間コミュニケーションや毒素輸送、遺伝子の水平伝播、バイオフィルム形成などに関与し、生態学的に重要な機能を果たしていると考えられている。しかしながら、MVの形成機構や細胞との融合メカニズムに関する知見は未だ乏しい。今後それらの詳細なメカニズム解析が進むことで、細菌生態において重要となる“細菌間メンブラントラフィック”の全貌解明が期待できる。
当研究室の先行研究では、MV生産のモデル細菌である緑膿菌を用いてMV形成機構の解析を進めてきた。その結果、ストレス応答、特にDNA修復に関わるSOSレスポンスがMV形成に関与することを明らかにした。さらにpyocinと呼ばれるバクテリオシンの生産がMV形成に関わることも示した。Pyocinは緑膿菌が生産するバクテリオシンであり、同種の異なる株に対して抗菌活性を持つバクテリオファージ尾部様の構造体である。本研究では、pyocin自体の構成要素ではなく、pyocinの放出(溶菌)に関わるholinとendolysinの2つのタンパク質がMV形成に関わることを新規に見出した。Holinはendolysinを細胞質からペリプラズムへと移行させる働きをし、さらにendolysinの推定ペプチドグリカン分解活性がMV形成に必須であることも証明した。つまり、holinの存在によりペリプラズムへと移行したendolysinがペプチドグリカンを分解することで外膜が剥離しMVが形成されるモデルが考えられる。興味深いことに、この経路で形成されたMVには、顕著な量の細胞質成分が含有されていることも確認されている。”Holin-Endolysin”システムは多くの細菌に保存された機構であり、細菌共通のMV形成機構である可能性が考えられ、現在異種細菌における普遍性の解析も進めている。さらに本研究では、形成されたMVの他の細胞への付着性に関しても解析を試みており、現在のところリポポリサッカライド(LPS)がMVの付着性に関与することを示唆した。以上の知見を踏まえて、細菌間メンブラントラフィックの動態や生態学的な意義について考察し、発表を行う。
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