OJ-09:シロアリ腸内原生生物に共生する新規デルタプロテオバクテリア綱細菌の生態と機能
1東北大学大学院農学研究科, 2Max Planck Institute for Terrestrial Microbiology, 3Free University of Berlin, 4Helmholtz Center for Infection Research, 5Joint Genome Institute, 6Australian Centre for Ecogenomics
下等シロアリの後腸内フローラにおいて木質セルロースの分解を行う原生生物は500種以上見出されているが、その中でもTrichonympha属鞭毛虫は最も頻繁に見出される代表的なシロアリ腸内共生微生物である。Trichonympha属鞭毛虫に共生する細菌の16S rRNA遺伝子プロファイルを調べたところ、ネバダオオシロアリの後腸に存在するTrichonympha属鞭毛虫は新規のデルタプロテオバクテリア綱共生細菌‘Candidatus Adiutrix intracellularis’を保有していることが明らかになった。系統解析の結果、Adiutrix intracellularisの近縁配列のほとんどがシロアリまたはゴキブリの腸内から単離されており、複数の腸由来クラスタ(Gut clusters)により形成される単系統群に含まれていた。また、この系統群は、複数目の分類が確定していないデルタプロテオバクテリア綱細菌株と同程度に高い相同性があり、新規の科あるいは目に分類され得ることが考えられた。一方、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析および透過型電子顕微鏡(TEM)解析した結果、Adiutrix intracellularisはTrichonympha属鞭毛虫の細胞内共生細菌であり、近隣には同じくプロテオバクテリア綱に属する‘Desulfovibrio trichonymphae’が細胞外共生細菌として存在していることが明らかになった。さらに、Trichonympha属鞭毛虫の共生細菌画分から調製したメタゲノムライブラリから、Adiutrix intracellularisのドラフトゲノムシーケンスを獲得し、アノテーションを行ったところ、本細菌はホモ酢酸生成と窒素固定の能力を有していることが知られた。また、ホモ酢酸生成に関与する遺伝子のうちWood-Ljungdahl経路を担う酵素遺伝子は、酢酸を消費するデルタプロテオバクテリア綱に共通に保存されているタイプであったが、末端の水素依存型の二酸化炭素還元酵素(HDCR)のサブユニットを形成する遺伝子は、シロアリ腸内の代表的なホモ酢酸生成細菌であるTreponema属(スピロヘータ門)やFirmicutes属と最も相同性が高く、水平伝搬により獲得された可能性が示唆された。
keywords:insect symbionts,metagenomic analysis,fluorescence in situ hybridization (FISH),termite gut ,deltaproteobacteria