OJ-10:ホソヘリカメムシ−Burkholderia属細菌の共生成立に関わる環境要因
1産業技術総合研究所生物プロセス研究部門, 2産業技術総合研究所環境管理技術研究部門, 3農業環境技術研究所
多様な動植物がその成長や繁殖に重要な共生細菌を毎世代環境中から獲得し、特殊な共生器官に保持することが知られている。このような内部共生系において、共生成立過程や成立後にみられる宿主−細菌間相互作用については広く研究されているが、環境中における共生細菌の生態や群集動態、さらにはそれが宿主との共生成立に及ぼす影響についてはほとんど調べられていない。ダイズ害虫のホソヘリカメムシは、毎世代環境土壌中からBurkholderia属細菌の特定の系統群(Stinkbug-associated Beneficial and Environmental group, SBE)を選択的に獲得し、消化管に発達する袋状の共生器官に保持することが知られている。SBEに感染すると成長期間の短縮や産卵数の増加がみられ、さらに近年の研究から、殺虫剤分解活性のあるSBEに感染すると宿主カメムシが殺虫剤抵抗性を獲得することも明らかとなってきた。本研究ではホソヘリカメムシ-Burkholderia共生系を対象に、環境中における共生細菌の分布や群集動態が共生の成立に及ぼす影響を調査したので報告する。具体的には以下のような実験を行った:①全国各地の農耕地土壌を用いてカメムシの飼育実験を行い、各土壌細菌叢とカメムシの感染頻度を比較した;②殺虫剤散布によって起きる土壌細菌群集の変動が共生成立に及ぼす影響を飼育実験により解析した。
①について、全国各地のダイズ畑から採取した土壌を用いてホソヘリカメムシの飼育を行い、土壌の細菌群集構造および飼育したカメムシのSBE感染率を比較解析したところ、SBEの全細菌叢に対する割合が10-2%オーダーの土壌を用いた飼育系において全ての個体が共生細菌に感染する事が明らかとなった。一方、SBEが10^-3%オーダーの土壌では感染個体がほとんど検出されなかった。また②について、殺虫剤を散布した土壌では、散布回数が増えるにつれて土壌中の殺虫剤分解SBEが増加し、全細菌叢に対する割合が10^-3%オーダーに達すると殺虫剤分解SBEに感染したカメムシが出現することが明らかとなった。これらの結果は本共生系の成立において土壌中のSBE存在量に閾値があることを示しており、ホソヘリカメムシの成長・繁殖や殺虫剤抵抗性獲得において生息域の土壌細菌叢が極めて重要な制限要因となることを示唆している。
keywords:土壌微生物,共生微生物,昆虫