PJ-177:菌体間距離が微生物間相互作用に与える影響の解析
筑波大院 生命環境系
微生物の生息域は幅広い.河川・湖・海洋といった水圏から,砂漠・土壌などの地圏,動植物の体内に至るまで広範である.孤立無援に存在すると考えられていたこれら微生物は,実は多くが集団形態をとっている.大変興味深いことに,集団を形成した微生物は互いに関わり合いを持つこと(微生物間相互作用)が明らかになりつつある.この微生物間相互作用においては,微生物間の距離が重要であると思われる.例えばQuorum Sensing (QS)という微生物間相互作用は,微生物の病原性・抗生物質耐性・運動性・嫌気呼吸といった様々な性質を変化させており,実環境中における微生物の生態を理解する上で重要である.QSは微生物間で低分子化合物(シグナル物質)を受け渡すことで機能発現するため,菌体密度あるいは菌体間距離依存的な機構だと考えられている.菌体間距離が近づくほどシグナル物質の受け渡しが活発になり,発現が誘導されると仮定されるためである.しかし,実際に菌体間の距離を制御し微生物の挙動を解析した例はほとんどない.
そこで本研究では,菌体間距離の制御を可能にする系の構築,および菌体距離が微生物に与える影響の解析を行った.菌体間距離を制御する素材として,我々は温度応答性高分子poly(N _isopropylacrylamide) (PNIPA)に着目した.PNIPAは32℃を境に伸縮する性質を持つため,微生物を包括させたPNIPA担体に温度変化を与えることで菌体間距離を制御できると考えた.実験の結果,PNIPA担体は温度に応答して体積を70 %以上変化させた.加えて,体積が変化したPNIPA担体中の菌体と温度非応答性担体polyacrylamide (PA)中の菌体とでは集団形成の挙動が大きく異なった.本研究により,菌体間距離に応じて微生物の挙動が変化することが示唆された.今後,この現象にどのような微生物間相互作用が関与するのか解析を進めていく予定である.
keywords:cell-cell communication,temperature responsible polymer,微生物間相互作用,温度応答性高分子