PJ-176:Paracoccus denitrificansにおけるクオラムセンシングを介した凝集体形成
筑波大院・生命環境
我々が言葉を介してコミュニケーションを行うように、細菌同士も低分子化合物であるシグナル物質を介して遺伝子の発現調節を行い、集団的挙動を制御している。特に、菌体密度が一定以上に達した場合に形質を変化させる現象をクオラムセンシング(QS)と呼び、QSにより毒素生産、発光など多くの現象が制御される(Salmond GP, et al., 1995, Mol Microbiol)。現在までに、様々な細菌におけるQSメカニズムについて報告されているが、多くは病原性細菌を対象とした解析である。しかしながら、このQS機構は、広く環境中で行われていると考えられており、グラム陰性細菌のうちでも150以上の菌種がQSに用いるシグナル物質の合成遺伝子を持つことが報告されている(Churchill ME, et al., 2011, Chem Rev)。これらのことから、環境中の多くの細菌がQS機構を持つと考えられており、QSの環境中での役割に関して注目が高まっている。
そこで、環境中でのQSの役割を解明するため、微生物のフロック(排水処理に用いられる活性汚泥)に広く存在する脱窒細菌であるParacoccus denitrificansのQS機構及びフロック中での役割、その生態的な意義を明らかとすることを目的とした。P. denitrificansのQSに関しては、QSに用いられるシグナル物質を生産するという報告のみであり(Schaefer AL, et al., 2002, J Bacteriol)、その制御下の因子やQSの制御メカニズムは明らかとされていない。まず、P. denitrificans のQS制御下の因子を解析するため、QSに用いるシグナル物質の合成遺伝子を欠損させた株(ΔluxI )を作成したところ、野生株は非凝集性であるのに対し、ΔluxIでは凝集体を形成することが観察された。P. denitrificansはQSを介して凝集形成を負に制御していることが示唆された。今後は、さらなる詳細なメカニズム解析とともに、P. denitrificansのQSを介した凝集制御が、環境中でどのような役割を担うのかを解析する。
keywords:quorum sensing,AHL,aggregation,,,