PH-123:ヒト唾液菌叢の構造と機能の概日変動
1東大院・新領域, 2慶應・医, 3東大院・新領域, 4早稲田・先進理
ヒト常在細菌はホストのホメオスタシスや生活習慣と大きな関連があることが知られているが、それらが日常生活の中で菌叢の変動にどの程度影響するのかについての知見は少ない。我々は、詳細な経時サプリングが可能な唾液細菌叢における日内変動の解析を行った。6名の健常者から 数時間ごとに3日間採取した唾液検体から細菌叢 DNA を抽出し、16S rDNA V1-2 領域の 454 GS FLX を用いた 16S アンプリコン解析を行うことで、各検体の菌叢構造を解析した結果、菌叢構造が概日リズムを示す日内変動をしていることを確認した。属レベルで明らかな概日リズムを示すものは菌全体の84%を占め、更にその中のStreptococcusやPrevotella, Rothiaなど73%の属は、調べた被験者の殆どで同じ時間帯に増える傾向があった。また、食事による短期菌叢撹乱の影響は食後1~1.5hにとどまり、その変動の大きさも概日リズムによって起こる一日の菌叢変動の大きさより小さいことを確認した。一日の菌叢変動の幅は、時に菌叢の個人差をも上回ることがあるほど大きく、このことはサンプリングの時間や薬剤投与の時間について十分考慮する必要があることを示唆している。菌叢の変動は、唾液菌叢を口内から出して培養した場合には観測されないことから、自発的に起こるものではなく、ホストの概日リズム、行動リズムを反映したものだと考えられる。菌種の好気・嫌気性と菌叢変動のパターンを調べた結果、主要な属について大まかに好気菌は夕方、通性嫌気性菌は夜、嫌気菌は朝に増える傾向があることを確認した。更にメタゲノム解析による網羅的な機能遺伝子解析を行った結果、菌の代謝に関する遺伝子群は朝に、環境応答に関連する遺伝子群は夜に増加する概日リズムを示すことが明らかになった。環境応答に関連する遺伝子群の多くは、通性嫌気性菌によって構成されており、それらがホストの概日周期を媒介することによって、菌叢の概日リズムが形成されている可能性もある。我々のデータは、ダイナミックな菌叢の概日周期がホストのホメオスタシスと密接に関連していることを強く示している。
keywords:唾液細菌叢,概日リズム,ホメオスタシス