PG-101:淡水環境に存在する異化的な硫黄代謝に関わる微生物の多様性
北海道大学・低温科学研究所
アデニリル硫酸還元酵素は、異化的な硫酸還元と硫黄酸化に関わる酵素である。本酵素はアーキア2門とバクテリア4門の硫酸還元菌、およびアーキア1門とバクテリア3門の硫黄酸化菌に保存されており、硫黄循環に関わる微生物の多様性を調べるためのマーカー遺伝子として利用されている。本研究では、淡水環境に存在する硫酸還元菌と硫黄酸化菌の系統学的な位置付けを明らかにするために、6つの淡水湖沼から採取した水あるいは堆積物、2つの温泉から採取した微生物ストリーマーあるいは温泉水からアデニリル硫酸還元酵素のαサブユニット(AprA)と16S rRNA遺伝子の配列をクローニングした。クローニングしたAprAの部分配列の系統学的な位置付けは、全長に近いAprA配列から作成した系統樹に基づいて推定した。クローニングした16S rRNA遺伝子の部分配列はRDP Classifierで分類した。AprAの系統樹は、硫黄酸化菌から成る2つのクラスター、硫酸還元菌から成る多数のクラスター、そして硫黄酸化菌と硫酸還元菌から成るクラスターから構成された。淡水湖沼からは、Desulfobacteraceae科とDesulfobulbaceae科、温泉の微生物ストリーマーからはThermodesulfobacteriaceae科に分類されるAprA配列が頻繁に検出された。硫黄酸化菌のクラスターはAlpha, Gamma-, Beta-proteobacteriaが混在する形で構成されたため、クローニングで得られた硫黄酸化菌と考えられるAprA配列の多くは分類が困難であった。例外的に、南極の淡水湖沼から高頻度で検出された2つのAprA配列グループについては、その最近縁種が16S rRNA遺伝子のクローンライブラリーからも高頻度で検出されたため、属レベルの帰属を推定できた。一方で、硫黄酸化菌と硫酸還元菌の両方から構成されるクラスターに属するAprA配列は、全ての淡水湖沼と温泉水から検出された。このクラスターに分類されるAprA配列の分布を公共のデータベースで検索した結果、淡水環境だけではなく海洋や高塩湖沼などを含む様々な環境から検出されていることが分かった。以上より、淡水環境で主要な硫酸還元菌と硫黄酸化菌の系統学的な位置付けと、様々な環境で硫黄循環に関与すると考えられる未知の微生物の存在が示された。
keywords:アデニリル硫酸還元酵素,硫黄酸化,硫酸還元,淡水