PG-095:通性嫌気性鞭毛虫Suigetsumonas clinomigrationisの微細構造と増殖生理
福井県立大学海洋生物資源学部
【目的】従属栄養性鞭毛虫(HNF)は、水圏の微生物食物網で細菌捕食者として重要な役割を担っている。無酸素水塊や底泥などの嫌気環境でも微生物食物網が認められ、好気環境に生息するHNFと同等以上の細菌捕食活性を潜在的に有することが明らかとなってきた。しかしながら、嫌気性HNFの生理生態は殆ど解明されていない。本研究では、水月湖から分離した嫌気性HNFの分類学的位置を明らかにするとともに、増殖および細菌捕食に関する生理学的な基礎的知見を得ることを目的とした。
【方法】水月湖の嫌気層からHNFを集積培養し、キャピラリー法によって嫌気性HNFを分離した。透過型電子顕微鏡で微細構造を観察し、近縁なHNF種と比較した。また、18S rDNAの塩基配列を決定し、系統樹を作成した。また、培養液中に存在する細菌株(Arcobacter sp. co01株)を分離し、この細菌株との二者培養系を確立した。増殖の至適温度と塩分を調べるとともに、餌(細菌)密度に対する増殖と細菌捕食速度の速度論的解析を行った。
【結果】分離株は、細胞長が3.5-6.7 _m、細胞幅が2.2-4.7 _mの紡錘型をした細胞であった。2本の鞭毛を有しwobbling motionが観察できた。分子系統解析の結果、本分離株はPlacididea綱に属し、最も近縁な既知の生物はWobblia lunataであった。Stramenopilesに特徴的な微細構造が認められたが、微小管の本数、ミトコンドリアの数、鞭毛移行帯のらせん構造などが、近縁種のHNFとは異なっていた。これらの結果から、本株を新属新種Suigetsumonas clinomigrationisであると提案した。
本株は、好気的にも増殖する通性嫌気性であった。水温10〜30℃、塩分3.9〜36.9 psuで増殖が認められ、至適条件は、25℃、7.8 psuであった。至適条件下で最大比増殖速度を求めたところ、好気条件では3.6/day、嫌気条件では0.5/dayとなった。また、最大細菌捕食速度と半飽和定数はそれぞれ、好気条件では6.5 細菌/cells/h、1.6×107 cells/ml、嫌気条件では2.0 細菌/cells/h、1.4×107 cells/mlとなり、分離株は現場環境では餌密度に制限されていると考えられる。
keywords:鞭毛虫,分類,増殖生理