PF-088:九州南東部の深部帯水層に存在するメタン生成メカニズムの解明
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九州南東部の宮崎県の太平洋沿岸域には宮崎ガス田、日南ガス田、佐土原ガス田の3つのガス田が存在し、地下約1,000 mまで掘削された大深度掘削井から天然ガスを産出している。これらの地域には古第三紀の海底堆積物に由来する地質構造である付加体が基盤として存在し、その上層に新第三紀から第四紀の堆積層が分布している。新第三紀の堆積層に存在する深部帯水層には豊富な嫌気性地下水と共に付随ガス(主にメタン)が存在している。また、九州南東部は付加体に貫入した花崗岩やいくつかの断層が見られることから、深部帯水層は地下深部に由来する貫入岩の熱や断層によって移動したガスの影響を受けていると考えられる。
九州南東部の深部帯水層に存在するメタンに関して、先行研究において炭素安定同位体比分析による起源の推定が行われており、有機物の熱分解起源であることが示唆されている。しかし、これまで微生物学的な研究はなされていない。そこで、本研究では宮崎県の堆積層に構築された9つの大深度掘削井から嫌気性地下水と付随ガスを採取し、環境データの測定、ガス組成分析、炭素安定同位体比分析、地下水中の微生物群集を対象としたメタ16S rRNA遺伝子解析、嫌気培養を試みた。そして、九州南東部の深部帯水層におけるメタンの生成メカニズムの解明を行った。
付随ガスの組成分析の結果、7サイトの付随ガスにメタンが90%以上の割合で含まれていることが示された。また、日南ガス田の1サイトではCO2が30%以上の割合で含まれていた。このサイトでは、地熱温度勾配が他のサイトに比べ有意に高い値を示しており、貫入岩または断層の影響を受けていると考えられる。メタンと地下水に含まれる溶存無機炭素の炭素安定同位体比分析の結果、付随ガス中のメタンは微生物起源と熱分解起源の混合であることが示された。遺伝子解析の結果、地下水中には発酵細菌及びメタン生成菌が優占して存在していることが確認された。地下水に有機物を添加した嫌気培養において、全てのサイトで水素発生型発酵細菌による水素ガス生成が確認された。また、そのうち6サイトで水素資化性メタン生成菌によるメタン生成が同時に確認された。本研究の結果から、九州南東部の深部帯水層において、有機物の熱分解と共に水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌の共生によるメタン生成が行われていることが示された。
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