OF-14:陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01の重粒子線耐性
1筑波大, 2三重大, 3放医研, 4東京薬科大
【はじめに】陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01は乾燥耐性を指標として単離された株で、これまでの火星環境や宇宙環境を想定した耐性に関する研究の中で、紫外線、ガンマ線、高低温および真空に対して高い環境耐性を具備することが確認されている。これらの耐性機能が高く評価され、微生物の捕集や地球上生物の宇宙空間曝露をISS曝露部で行うたんぽぽ計画の宇宙実験対象生物株としてHK-01は採択され、現在実験が行われている。我々は、HK-01は今後他惑星を含む有人宇宙活動で利用可能な生物種として高く期待できると考えている。本研究は、HK-01を宇宙環境で利用する際に目的地まで乾燥状態で運搬することを想定し、宇宙環境に多量に存在し、生命に深く影響を与える重粒子線に対する耐性とその機能について検証し考察した。
【方法】陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01を本研究における生物材料として用いた。乾燥藻体を、放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いて重粒子線 (He、C、Arイオン)照射を行い、照射後加水し、生細胞のみを染色するFDA(fluorescein diacetate)染色法と、全細胞数と1細胞から生長したネンジュ数を指標とした細胞生長試験を用いてそれぞれ生存率を導いた。生存率からD10値(生存率を10%まで減少させる線量)を算出した。
【結果および考察】用いた全てのイオン種及びその照射エネルギーにおいて、FDA染色法で生存率が対照の76%以上を示し、細胞生長試験の生存率は対照の53%以上を示した。FDA染色法の生存率の結果から求めたD10値は、Heイオン照射で5,654 Gy、Arイオン照射で2,623 Gyと算出された。この値は、哺乳類の致死線量である5~10 Gyや、光合成を行う高等植物の致死線量<1,000 Gyと比較すると、HK-01の重粒子線耐性が圧倒的に高いことがわかる。ISS外部の重粒子線量は1年間で約1 Gyであることから、HK-01の乾燥藻体は2,623年以上の時間をISS外部環境の重粒子線に耐えると算出され、将来の有人宇宙活動でHK-01を乾燥状態で目的地まで運搬を行うことは可能である。光合成や窒素固定をすることで物質循環を行うことができ、食料にもなるHK-01が有人宇宙活動に貢献できる役割は大きいと考えられる。
keywords:cyanobacterium,heavy ions tolerance