OF13:塩基配列の異なる2種類の16S rRNA遺伝子を有する好塩性アーキアHaloarculaの環境温度変動への適応戦略
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16S rRNAは二次構造を形成し、リボソームの小サブユニットの一部として翻訳機能を担っている。多くの原核生物はゲノム上に複数コピーの16S rRNA遺伝子を有するが、それらの塩基配列は概ね一致している。一方、好塩性アーキ アHaloarcula属はゲノム上に2種類の16S rRNA遺伝子を有し、それらの間で塩基配列では5%以上、G+C含量では2%以上の違いがみられる。16S rRNA遺伝子のG+C含量に着目すると、好熱菌や超好熱菌は高温環境において二次構造を保つために56-69%の高いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有し、一方で、好冷菌や中温菌は転写やDNA複製時にエネルギー消費量の少ない52-60%の低いG+C含量の16S rRNA遺伝子を有することが知られている。
本研究では、Haloarcula属菌株において培養温度により高いG+C含量の16S rRNA遺伝子 (58-59%) と低いG+C含量の16S rRNA遺伝子 (56-57%) の発現量が変化するかどうかを検証した。Haloarcula属菌株を25℃から45℃まで5℃間隔で培養し、2種類の16S rRNA遺伝子の発現量を測定した。その結果、25℃と比較して45℃では高いG+C含量の16S rRNA遺伝子の発現量が16-23%の割合で増加した。次に、高いG+C含量の16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンを欠損させた菌株 (ΔrrnA) と低いG+C含量の16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンを欠損させた菌株 (ΔrrnB) を作成し、25℃から45℃まで5℃間隔での培養実験を行った。最低生育温度にちかい25℃では野生株の増殖速度が最も速く、至適生育温度である45℃ではΔrrnAと比較してΔrrnBの増殖速度が有意に速くなった。この結果より、高温時における高G+C含量の16S rRNA遺伝子を含むリボソームRNAオペロンの重要性が示された。Haloarcula属菌株は砂漠の塩湖や塩田のような昼夜で温度変動が激しい環境に生息している。ゆえに、Haloarculaは、低温時には両方の16S rRNA遺伝子を、高温時に高いG+C含量の16S rRNA遺伝子を発現することで環境温度変動に適応している可能性が示唆された。
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