PI-145:網羅的遺伝子発現解析を用いた増殖に伴う大腸菌の比重多様性の解明
1筑波大院・生命環境, 2産総研・バイオメディカル
対数増殖期の細菌は、培地中の栄養源の枯渇や分泌物質の蓄積といった生育環境の変化を理由に定常期へと移行する。その移行の際には、細胞の小型化、細胞の球形化、核様体の凝集、細胞壁組成の変化などが起こることが一般的に知られているが、大腸菌では比重の多様性が変化することも知られている。既往の研究で、対数増殖期と定常期の大腸菌(単一株)培養液をPercoll密度勾配遠心したところ、各増殖期において比重が明確に異なる複数の細胞集団が生じることがわかっている(Makinoshima et al. 2002)。本先行研究において、いくつかの遺伝子については、比重との関連性が調査されているが、大腸菌単一株からなるクローン集団中にそのような特性の異なる細胞集団が生じるメカニズムの解明には至っていない。比重の異なる大腸菌細胞集団が生成する分子メカニズムを明らかにするためには、各集団における遺伝子発現プロファイルの相違を網羅的に調査することが有効であると考えた。本研究では、Percoll密度勾配遠心法と網羅的に遺伝子発現を解析するRNA-seqを用いて、比重の異なる各集団における遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析することを手掛かりに、その分子メカニズムで鍵を握る遺伝子の探索を試みた。
E. coli W3110株を培養し、対数増殖期と定常期の培養液をそれぞれPercoll密度勾配遠心により細胞集団へと分画した。その結果、本研究の条件では、対数増殖期において4種類、定常期において3種類の比重の異なる細胞集団が生成することがわかった。分画した各細胞集団からRNAを抽出し、Illumina MiSeqによるRNA-seqを実施し、その網羅的発現解析を行った。コントロールとして、Percoll密度勾配遠心を行っていない対数増殖期と定常期の培養細胞を準備し、同様に発現解析を行った。分画した各細胞集団とコントロールとの比較を行い、比重の高い細胞集団で発現量が2倍以上増加し、かつ比重の低い細胞集団では発現量が2倍以上減少している遺伝子に関して、対数増殖期、定常期のそれぞれで、複数種類見出すことができた。現在、これらの遺伝子が細胞の比重多様性の出現にどのように関与しているか検討を実施している。
keywords:RNA-seq,Diversity of specific gravity,Percoll gradient centrifugation